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第61話

『まぁ、そうですね』 「それは無理なお話です。我が国は合併はいたしません」  それは、父王のかねてからの意向であり、アンドレイの固い信念でもある。 「山に接する我が国と、海の近いこちらの国が一緒になれば、最強になると思うのですがね」 「そう申されましても……」 「ラティーニャ国にとっても、悪い話ではないですよ?」  確かに、ウルバヌス国にはラティーニャ国にない資源があるだろう。  しかし、合併するとなると簡単な話ではない。 それに、例えいくら相手が眉目秀麗であってもクラウド王のものになるなどあり得ない。  アンドレイは、きっぱりと断った。 「申し訳ございません。そのお話は丁重にお断りいたします」 「そうですか。どうしても駄目ですか」  クラウド王は悲しげな顔を見せた。 「はい」 「分かりました。そうだ。我が国よりお持ちした特別な酒をご用意していたのを忘れておりました」 「酒、ですか?」 「えぇ。少々お待ちいただけますか」  わけのわからないまま、アンドレイは頷いた。 「はい」  クラウド王は席を立ち部屋を出ていくと、しばらくして酒の瓶を持ち戻ってきた。 「お待たせいたしました。王様に、ぜひとも飲んでいただきたいと思いまして、絶品の酒を ご用意いたしました」 「それはありがとうございます」 「飲んでいただけますか?」 「はい、喜んで。我が国からも、後ほどクラウド王への贈り物がございますので……」 「それは有難いことです。では、こちらをお注ぎいたしますね」  賓客に酒を注いでもらうなどどうかとも思ったが、アンドレイは躊躇することなく注がれた酒を飲んだ。すると、次第に意識が遠退いていった。

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