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第63話
もしこのまま国を手放すことになったなら、父王にも申し訳が立たない。そして、ルイのことが気がかりだ。
『ルイ……』
ルイはどうしているだろう。自分を探しているだろうか。ルイが傍にいない不安に駆られる。
「力づくでお連れしましたが、王様に危害を加えるつもりはありませんので、ご安心ください」
「早く、早く私を帰してください。私はラティーナ国を守らなければならない」
すると、クラウド王はアンドレイを押し倒してきた。そして、アンドレイに跨り覆いかぶさってくる。
「あなたは、お付きの青年と“そういう仲”なのだとか。そうですね?」
「……」
アンドレイは顔を背けて返事をしなかった。
「おや、否定をしないのですね。昨日、お城で噂を聞いたのです。王様と、青年が“できている”のだと。あの、ルイという男のことですよね?」
「クラウド王には関係のないことです」
顔を背けたまま、アンドレイは答えた。
「ここにいて、私の“側室”になってください。あの青年を、忘れるくらい満足させますよ」
クラウド王はアンドレイの額に口付けを落とした。
何とも虫唾が走る。早くこの場から逃げ出したい。
『ルイ!早く助けに来い!』
アンドレイは必死に心の中でルイに助けを求めた。そして、手でクラウド王を払い退けた。
「何を血迷っているのです。強引に奪ったとしても、心までは奪うことはできないでしょう」
クラウド王をきつく睨む。
「私から、この私から逃げられると思うな」
クラウド王の眼差しがきつくなり、どう猛さを湛えていることが分かった。アンドレイは一気に恐怖に打ち震えた。
「そ、その様に脅かしても無駄です。私はあなたには従えないのですから」
クラウド王が顔を近付けてきてアンドレイの頬を一舐めした。背中に戦慄が走る。
『うっ……』
好きでもない相手からこの様なことをされるのが、どれだけ耐え難いことなのか、アンドレイは今日この場で初めて知った。
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