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第80話
「そうだ。あの時はまだ王子でしかなかったがな」
「その節は、王様だとは気付かず大変ご無礼をしたような気がいたします。申し訳ございませんでした」
「いや、良いのだ。私も身分を隠して訪れていたからな。そうだ。これから少し時間はあるか?」
「え?あ、はい。大丈夫です」
「それならば、私と話さぬか?」
アンドレイが提案すると、ロビーは戸惑ったようだ。
「私などが、よろしいのでしょうか」
「大丈夫だ。ルイ、良いか」
しばらく成り行きを傍らで見守っていたルイに問うと、「はい」と答えた。
三人は庭園に移動し、アンドレイとロビーは長椅子に座った。
アンドレイの後ろ側にはルイが立っている。
「あの時は、ありがとうございました。お粥をご馳走になって……」
「いや、気にするでない。庶民のためにできることをしたのだ。しかし、あれからそなたはどうしていたのだ?」
さきほどから、アンドレイはそのことが気になっていた。
「はい。王様が炊き出しをしてくださったため、炊き出しで食にありついていたところ、優しい夫婦に拾ってもらい育てられました」
「その様なことがあったのか。して、これまで、幸せに暮らしていたのか?」
「そうですね。基本的な学問は授けてくださいましたし、幾らかは剣も習いました」
「そうか……しかし、なぜ親衛隊に入ろうと思ったのだ?」
アンドレイに問われたロビーは、少し考えてから答えた。
「王様が、庶民のために炊き出しをしてくださったり、街を整備してくださったからです」
「そんなことで?」
アンドレイは目を瞬かせた。
「私の住む街は荒れていましたし、整備により大変に環境が良くなりました。綺麗な街となりましたし、私もこれまで生きてこられました。王様のおかげです。だから、王様のお力になりたかったのです」
「そうであったか」
確かに、アンドレイは四年ほど前にロビーのいた街の整備を大々的に行った。これほどまでに、喜んでくれる民がいたことをアンドレイは初めて知った。
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