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第5話
集合場所で俺達を出迎えたニッコニコの黒島とゲッソリした松原。
何があったかは訊かないでおこう。自分の為に。
「随分楽しんでたな」
「そりゃもう。黒りんも楽しかったみたいだね?」
「ああ、最高にな」
何か黒島と笠根の会話って時々圧を感じる気がする……あんまり話してんの見掛けないからかな?
「萩の裏切り者!」
「――うわっ!ま、松原急に耳元でデカい声出すなよ」
「ばーか!ばーか!萩のばーか!」
「うっ……悪かったって。ほら団子買って来たから食えよ」
そんなもの、と言いつつ松原の手は俺から団子を奪い取って、口いっぱいにそれを頬張った。
心の中でもう一度謝罪しながら俺は考える。
本当に大変なのは夜。宿泊する旅館、俺達四人同室なんだってこと。
どうか何事もなく朝を迎えられますように。
そんな祈りを知ってか知らずか、旅館に着いてからは何事もなく行事が進んだ。ピタリと止んだ黒島の松原へのセクハラ。ぶっちゃけ温泉入る時とか絶対何かやらかすと思ってたのに、全然大人しくて逆に警戒した。
いやクラスメートも居るしね。何もしないとか当然なんだけど!当然なんだけどさ!
そして夕食の時隣に座った黒島にこっそりと「結局の所付き合ったのか?」って訊いたら面白くなさそうに「保留中」だと返ってきた。
応援すべきか否か悩んだ末に「頑張れよ」とだけ声を掛けた俺に黒島は「まあ付き合おうが合うまいがアイツは俺のもんだ」と言い放ってきたので、そこで会話は遮断した。
聞いてない。俺は何も聞いてない。うん、よし。
「萩、萩、ナス天ちょうだい」
俺の葛藤など露知らず反対隣の笠根は俺のナス天を狙っていた。
いやまあ良いんだけど。俺、ナス嫌いだし。
「ん、どうぞ」
「わぁーい、じゃあ代わりに海老天あげる」
「え、いいって。海老天とか天ぷらのメインじゃん」
「いいよ、俺は海老よりナスが好きだから。萩は海老天好きなんでしょ?好きなもので交換しよーよ」
良いとか悪いとか言う前に俺の皿に乗せられる海老天。
「…………ありがと」
ナスが嫌いだって言った事も海老が好きだって言ったこともない。だけど笠根は知ってる。
幼馴染みだから、ずっと一緒に居たから知ってる。
ちなみに笠根は辛いものが苦手だ。直接言われたことは無いけど知ってる。
当たり前に分かる。一緒に居た分だけ。
“最後かもしれないし”
だけどこれからは当たり前じゃなくなるのか。
そしたら知らないことの方が増えていくんだな。
「…………萩どーしたの?もしかしてこの大葉天も狙ってる?」
「……違うから安心して思う存分食えよ」
笠根の言葉のせいで妙な気持ちになる。
モヤモヤする。嫌だな、何か。
会えなくなるわけじゃないのに。
会おうと思えば会えるんだ。
でも会おうとしないと、会えなくなるんだ……。
俺の当たり前が他の誰かの当たり前になる。そんな日が来るなんて考えたことも無かった。
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