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第6話

「はい、じゃあ消すよーぉ」 欠伸混じりの笠根の声で部屋の電気が消えた。 何事も起きないまま迎えた就寝時間。 いや本当に良かった。 平穏な夜を迎えられて。 昼間歩き回った疲れからか程なくして睡魔に襲われ、俺は心地よく意識を手放した。 どのぐらい眠ったかは分からない。 ただ部屋の暗さから夜明けはまだ遠いことが分かる。 尿意を感じて変な時間に目が覚めた。 体にダルさを感じながらも致し方なく布団から出て部屋を抜け出した。 すげーいい旅館だけど、部屋にトイレ付いてないのだけはちょっと不便。まあ言うほどの距離でもないんだけど。 止まらない欠伸を噛み締めてそそくさとトイレへ足を運ぶ。 幸い誰にも会うことなく用を足して、もう一度寝直そうと足早に戻る途中、部屋の前でしゃがむ影に気が付いた。 何してんだ、こんな時間に……?まさか幽霊とかってやつじゃ――ってあれ笠根? 近付いてみたらやっぱり笠根で「あ、おかえりー」だなんて呑気な声で俺を迎える。 「良かったーぁ、無事だったんだね」 「無事?何言ってんだよ、早く戻って寝――」 「――あ、止めといた方が」 笠根が言いかけた言葉の意味は、襖に手を掛けた瞬間聞こえてきた別の音で理解した。 布の擦れる音、潜めながらも荒い息遣い、それから……。 「うっ…………ば、か……そぅ…ごの……ばかぁ……」 「可愛いな、梢」 あ、ああああアイツらおっ始めやがった……嘘だろ……。 慌てて手を離した拍子に微かに出来た隙間。 やべ、気付かれ……るかと思ったけど、中からの音は止む気配はない。 夢中って訳ですか、そうですか。 「いやー、無事で良かったよ。部屋戻ってきたら始まってたからさ。あの中に萩のこと置き去りにしちゃったかなって思ったから」 「俺はトイレに……てかお前はどっから戻ってきたんだよ?トイレじゃないよな?」 居なかったし。 「俺は散歩ー」 「散歩?」 「そー、散歩」

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