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その後の諸事情2
嬉しくない!と俺が噛み付いたって笠根は、笑って躱すだけ。
一頻り笑い終えた笠根の興味は戯れ合う友人二人へと向かったようだ。
「黒りん不機嫌だねー。松ちゃん何かしたの?」
「何もしてねーって!ただ笠根の顔褒めてやっただけだっつーの!」
「はは、何それ、ウケるんだけど」
黒島の腕の中、藻掻く松原は再び地雷を踏んだらしい。
抵抗らしい抵抗も出来ないまま、その身体は黒島に引き摺られるようにして屋上から姿を消した。
去り際の黒島は悪魔のような笑みを浮かべて「再教育だな」と呟いたのを聞いた俺は、午後の授業に二人の姿はないだろうと悟った。
「松ちゃん頑張れー」
もはや姿が見えない松原への無意味なエールは虚しく空気となった。
「…………」
「しっかし松ちゃんも学ばないと言うか鈍いと言うか。黒りんも苦労が絶えないねぇ」
どっちかと言えば苦労してるのは松原のような気がするけど。
「んで、なーんで俺の顔褒める流れになったの?」
野菜ジュースを早々に飲み終えて、その手には次いでクリームパンが握られている。
「え、あー……笠根が案外モテるって話からそうなった……」
「えー?俺そんなモテる方じゃないけどなぁ」
「…………」
たった今告白されて来たくせに……。
「…………じゃあさっきの用事って何だったんだよ?」
「えー、用事は用事」
「誤魔化すなよ……どうせ告白、されたんだろ……?」
若干不貞腐れた物言いになってしまったのは失敗だった。ここは世間話のように何気なく切り出すところなのに……。笠根が変に隠そうとしたせいだ。
案の定俺を見る笠根の目は珍しいものを見た時と同じ反応をしていた。
「どーしたの?普段ならそう言うのに疎いのに、今日はやけに鋭いね?」
「松原と黒島が二人揃ってそうだって言ってた」
「あー、なるほど」
「で、どうなんだよ?されてきたのか……?」
「んー…………」
何かを考える素振りで空を見上げた笠根は、いつの間にか最後の一口になっていたクリームパンを口腔へと放った。
それを嚥下する喉元を見守って次の言葉を待つ。
「まあ、されたけど。断ったよ」
「……やっぱモテんだ」
「羨ましいの?」
空から落ちてきた視線は悪戯心を表したように笑った。
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