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04-4.悪役令息だが、「愛されたい」とは言っていない!
* * *
生徒会の仕事を終え、寮に戻ったダニエルたちは寛いでいた。
早々に使用人は部屋から追い出されているからだろうか。フェリクスは機嫌良さそうに本を読んでいる。その膝の間には興味深そうな表情でフェリクスの読んでいる本を見ているダニエルが座っていた。邪魔をされない状況だからなのか、ダニエルは拒むことなく、フェリクスの膝の間に収まっている。少々、窮屈そうではあるものの、文句の一つも出てこない。
……顔が見えねえけど、この姿勢が落ち着くんだよなぁ。
同級生たちの中でも体格がいいフェリクスを独占する機会は限られている。少なくとも彼の膝の間に座ることが許されているのはダニエルだけだろう。
……フェリクスには言ったことがねえけど。
彼の性格を考えると、一度、口に出してしまえば上機嫌で膝の上に乗せようとするだろう。二人だけの空間ではなくとも構わないと言わんばかりに行動に移すのが目に見えていた。
だからこそ、ダニエルは言いたくなかった。
二人だけの秘密のようなものが欲しかったのかもしれない。
「再公演決定か。いいな、今度、観に行こうぜ」
「王都に来るのか?」
「来るだろ。来月だって書いてあるし」
「ふうん。まあ、行ってもいいけど。前回、面白かったし」
「だろ? この劇団は外れがねえよ」
学院での日々に退屈をしている生徒向けの雑誌だった。
魔法学院の敷地近くにある観光地などを特集している雑誌の頁をめくる。地方で人気の劇団の特集には嬉々として読み込んでいたフェリクスだったが、次の頁の特集は興味がないのか、すぐに捲ろうとしてダニエルに止められた。
「これ」
ダニエルが目に留めたのはスイーツの特集だった。
……イベントだ。
乙女ゲームには様々なイベントが存在していた。その内の一つが攻略対象とのデートイベントである。これは週末に開催されている定期イベントの一つであり、ダニエルも前世では何度か挑戦したことがあった。
……フェリクスが選ばれるかもしれねえ。
大柄なフェリクスだからこそ、ダニエルを膝の間に座らせていても狭いと文句は言わないものの、異性ならばもう少し余裕ができることだろう。
ダニエルの脳裏を過った乙女ゲームの光景に眉を潜める。
乙女ゲーム通りの展開となれば、フェリクスを独占することができるのはダニエルではなくなってしまうのだろう。彼はヒロインに恋をする。それはこの世界が乙女ゲームの世界観を取り込んでいる限りはダニエルの前に現れ続ける危機の一つだ。
「これを食べに行こう」
「……珍しいな。ダニエル、甘いものはあまり好きじゃねえだろ」
「別に俺は食わねえし」
「なんだよ、それ。それじゃあ、意味がねえだろ」
「フェリクスは好きだろ、甘いもの。たまにはお前が好きなものに合わせてやる」
ダニエルの言葉にフェリクスは驚いた様子だった。
以前より頻繁に二人で遊びに出かけていたが、ダニエルがフェリクスを気にしたことはなかった。それなりに気を使っても、気づけばフェリクスがダニエルを喜ばせようと色々と計画を立てていることが多く、ダニエルもそれに甘えていた。
……気に入らねえだけだ。
自分自身に言い訳をする。
身体の関係を持っていてもなお、友人だと言い張るのは都合の良い言葉だと自覚はしているのだろう。それでも、ベッセル公爵家の当主である父親からダニエルの婚約に関する出来事を一任されている兄を説得できない限りは二人が婚約者になることはない。
なによりも、ダニエルは恐れていた。
乙女ゲームの攻略対象であるフェリクスがクラリッサに恋をした時、同性のダニエルは切り捨てられるだろう。婚約を結んだ後、そのような事態になれば、ダニエルは冷静ではいられないだろう。気が狂ってしまうだろう。そして、嫉妬心に塗れた刃はフェリクスに向けられることだろう。
自分自身の性格を知っているからこそ、ダニエルは前に進む決意が持てない。
度々言い争いをしていても、フェリクスを傷つけたくはなかった。
「お前がよく言ってるだろ。好きな奴の喜ぶ顔が見たいだけだって。俺はそんなことを言われても嬉しくねえからな。でも、まあ、その気持ちはわからなくもねえから。だから、遠慮をするなよ。いいか? 俺は俺が満足する為だけに言ってるんだからな!! フェリクスの為じゃねえから! 俺の為のデートだからな!」
早口になってしまう。
言っていることが無茶苦茶な自覚はあった。しかし、頬が赤くなるのと同じように言い訳がましい言葉が止まらない。
「だから演劇を観て、甘いものを食べて、定番のところを回って、さっ、最後は、気持ちいいことをしてやる。好きな奴の好きなことなんて、そのくらいしか知らねえし、お前は変態屑野郎だから、よくわかんねえことを言ってきやがるけど、デートの時くらいは特別に応えてやる。好きだからな。だから、そ、そのくらいのことは当然だろ!」
フェリクスがなにも言わないと不安になってきた。
……デートか? デート発言がいけなかったか?
友人として遊びに行くつもりだったのだろうか。滅多なことでは本音を語らないダニエルに対し、好意を伝えてくるフェリクスではあるが、それは友情の一環のつもりだったのだろうか。急に不安になってくる。
……ここまで来たら、もう、どうにでもなれ!
自棄になっていた。
自滅だと笑われても構わないと開き直る。
「だ、だから、俺のこと、好きでいろよ。フェリクス」
声が震えていた。不安に思っていることはフェリクスに伝わってしまっただろう。そこまで言い切ることはできたものの、遂に目を閉じた。
雑誌が片付けられる音がした。雑な扱いだ。音がいつもよりも大きく聞こえるのは目を閉じているからだろうか。
「……なんだよ、それ」
耳元で声がした。
思わず、肩を揺らす。頬だけではなく、耳まで赤くなっていく。
「好きでいろって? ふざけんな、自覚がねえのもいい加減にしとけよ」
フェリクスの腕はダニエルの胸に向けられる。
優しく抱きしめる。その言葉を待っていたようにも、不満に思っているようにも取れる動きだった。
「俺が愛してるのはダニエルだけだ。だから、愛されてる自覚を持てよ。俺がお前のことを好きじゃなくなる日なんか来ねえんだから」
フェリクスの手は徐々に怪しい動きになる。
洋服の上からではあるものの、ダニエルの乳首を優しく撫ぜまわし、次第に手つきは激しいものに変わっていく。突然の行為に驚いたのか、ダニエルは思わず自分自身の口を右手で覆う。それでも少し声が漏れてしまう。
「ダニエルの心も体もなにもかも俺のものだろ?」
「……んっ」
「はは、それは自覚してるのかよ。可愛い奴。お前は俺のだ。誰にも渡さねえ」
フェリクスの言葉に対し、ダニエルは何度も頷く。
甘い言葉を吐いても指の動きは変わらない。ダニエルの弱いところを虐めるようにフェリクスは指を動かしていく。抱き着かれる姿勢になっているからだろうか。耳元で囁かれると普段よりも感じやすくなっているような気がした。
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