9 / 69

04-5.悪役令息だが、「愛されたい」とは言っていない!

「ダニエル」  名前を呼ばれるだけで心地よい快感に襲われる。 「声、聞かせろよ」  洋服の上からダニエルの乳首を弄んでいた右手が離れ、ダニエルの手を優しく引っ張る。抵抗しようと思えばできただろう。しかし、ダニエルは抵抗することもなくフェリクスに導かれるように自身の口から右手を離した。 「ひゃっ……!!」  甲高い声が出た。  フェリクスの左手が洋服の中に侵入し、好きなように乳首を弄ぶ。ダニエルの弱いところばかり強く押したり、指で弾いたりしている。声を抑えようとしていたことに対するお仕置きだと言わんばかりの刺激に身を捩り、逃げようとすると、右手も洋服の中に入ってくる。 「ひっ、……んっ、やっ、めろって!」 「嫌じゃねえだろ? 感じてるくせに」 「んんっ……!」  首を左右に振るう。  フェリクスがダニエルの耳朶を甘噛みすると一段と高い声が上がった。それなのにかかわらず、嫌だと訴えるようにダニエルは喘ぎ声が混ざった声をあげる。 「なにが嫌なんだよ? 言ってみろよ、ダニエル」 「ふ……っ、ん……っ」 「おい、声を抑えんな」 「ひっ! や、やめっ!」 「はは、止めるわけねえだろ?」  フェリクスは攻める手を緩めない。  ダニエルがフェリクスの声に弱いことは知っているのだろう。耳元で囁くようにダニエルの名を何度も呼ぶ度にダニエルは悩まし気な声をあげる。 「弱いもんなぁ? 胸だけでイってみろよ」  勃起した乳首を強く擦られる。  その痛みすらも快感になる。フェリクスの手は遠慮なく乳首を責めたり、時々、思い出したかのように優しく撫ぜまわしたりする。その度にダニエルは頭の中がおかしくなりそうな快感を与えられる。  ……この屑野郎!  快感のままに達しそうになる度に責め方を変えられる。焦らされ続け、頭の中がおかしくなってしまいそうだった。ダニエルの状態に気づいているはずのフェリクスは上機嫌で責め続ける手を止めない。  ……あぁ、クソ、この姿勢だと顔が上手く見えねえ。  抱きしめられているのは気持ちがいい。  しかし、フェリクスの顔を正面から見ることはできない。 「は、あっ、……フェリクスっ」 「ん?」 「好き、好き、だから、顔っ、見せろっ」 「俺も愛してるよ、それにしても、今日は素直じゃねえか」 「んぁっ……! フェリ……っ!」  弱いところばかりを責められる。  ダニエルの頭が真っ白になる。なにも考えられない。喘ぎ声を抑えることを忘れてしまったかのように声をあげ、身体が震えてしまう。快楽を与えているフェリクスも興奮を隠し切れないのか、徐々に息が荒くなる。我慢ができないというかのようにダニエルの首筋を噛む。 「あ、あ、あああっ!」  その刺激でダニエルは達してしまう。  射精してしまう。快楽と共に下着が濡れていく違和感が心地よく思えてしまう。ダニエルの尻にはフェリクスの大きくなったものが押し付けられており、それを刺激するかのようにダニエルは僅かに身体を動かしていた。無意識だったのだろう。射精が終わり、頭の中が冷静になっていく。 「挑発するんじゃねえよ」 「は、お前が悪いんだろ」 「一回イったら余裕そうだなぁ? 覚悟しとけよ」 「うるせえ。俺じゃねえと満足しねえようにしてやるからな!」 「俺はダニエル以外にはしねえんだけどなぁ。どうしたんだよ? 珍しいじゃねえか、いつもは抵抗するだけだろ?」  抱きしめられる。  相変わらず、フェリクスの両腕はダニエルの洋服の中に潜ったままだったが、それすらも抵抗をしないダニエルに対して違和感を抱いているのだろう。 「……うるせえ、なんだっていいだろ」  ダニエルの態度の変化に気付いているのだろう。  それでも、フェリクスに打ち明ける気にはなれなかった。 「抱けよ、フェリクス」 「へいへい。そうさせてもらうかなぁ」  フェリクスはダニエルの服の中から両腕を抜く。それが合図かのようにダニエルは椅子から降りた。そして、寝室に向かう。 「ダニエル」 「なんだよ」 「これ、あれだよなぁ。ラブラブエッチってやつ?」 「気持ち悪いことを言ってんじゃねえよ。萎える」 「ひでえなぁ。一回、イったんだから萎えてるだろ?」 「うるせえ。ヤル気がねえなら着いてくるんじゃねえ!」  ダニエルに抱き着くフェリクスを振り払わないのは慣れだろうか。  身長の高いフェリクスを引きずるかのように寝室に向かう。達した直後ではあるのだが、体力のあるダニエルには大したものではないのだろうか。耳まで赤くはなっているものの、軽口を叩きながら進んでいく。  寝室の扉を開けた途端、フェリクスはダニエルの身体を抱き上げて、ベッドに放り投げる。衝撃で跳ねるダニエルの身体を押さえつけるようにフェリクスは跨る。そこで、フェリクスが珍しく余裕がなさそうな表情をしていることに気付いた。 「はっ、最高だな」  押し倒されている状況にすら興奮をする。  ダニエルはフェリクスの頬に手を伸ばす。 「大好きだ、フェリクス」  ダニエルは幸せそうに笑った。  ……一方的なものでも構わねえ。  フェリクスの余裕のない表情を見ることができるのはダニエルだけだろう。今はそれだけでよかった。この先、起きる未来はヒロインの為のものだ。乙女ゲームの悪役に過ぎないダニエルと攻略対象のフェリクスが結ばれて幸せになる未来があるとは限らない。  ……愛されたいとは言わねえから。  悪役令息としての運命を受け入れる覚悟はある。  最悪の展開だけを変えることができれば、ダニエルは十分だとすらも思っている。大切な家族の幸せを壊さなければ、ダニエルは自ら進んで犠牲になる道を選ぶだろう。  ……今だけは俺のものだ。  犠牲になるのならば、そこにはフェリクスは連れていけない。  誰よりも愛している人の不幸を望むことはできない。 「俺も愛してるよ。だから、不安そうな顔をするんじゃねえよ。何度だって言ってやる。俺にはお前だけだ。ダニエルにも俺だけだろ? それでいいじゃねえか。めんどくせえことは俺がなんとでもしてやる。だから、ダニエルは俺の傍にいればいい」  そのままキスをされる。  いつもとは違う。優しいキスだった。

ともだちにシェアしよう!