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03-2.悪役令息は愛されている
舌を絡め合い、水音が聞こえる。
激しく互いを求めあうかのように重ねられた唇の隙間から、息が漏れる。時々、思い出したかのように僅かに離され酸素を取り入れると、すぐに唾液を貪り合う。どれほどの間、そうしていただろうか。僅かにしか取り入れていない酸素不足の頭では時間の感覚が長く感じてしまう。その時間すらも愛おしく感じる。
「俺も愛してるよ、ダニエル」
唇が離された。
蕩けた顔をしているダニエルに追い打ちをかけるかのようにフェリクスは愛を囁き、自身の唇を舌で舐める。互いに興奮を隠している余裕などなかった。
「んひゃっ……」
妙な声がでた。いつもの他人を脅迫するような低い声からは想像することができない可愛らしい声だった。
思わず声を隠そうとするダニエルに対し、フェリクスは上機嫌だった。彼としては愛する人の可愛らしい声はいくらでも聞いていたいのだが、それを隠そうとする初心な反応も嫌いではなかった。
「んっ……!」
フェリクスはダニエルの右側の乳首を舐める。反対側の乳首を指で弄りながら、彼の弱いところばかりを狙っていく。声を隠そうと懸命に口を押えている手が震えていることにも気づいているのだろう。乳首を舌で転がすように舐めたと思えば、甘噛みをしてみたりと刺激を与え続ける。その間も右手は左側の乳首を摘まんだり擦ったり、爪で弾いたりとしている。
時々、思い出したかのようにフェリクスは唇を離す。
それから、左側の乳首を舐めたり、両方を指で弄ったりと好き勝手に振る舞う。
ダニエルは快楽に弱い。そうなったのは幼少期からフェリクスによって好き勝手に開発をされてきた影響なのだろうか。元々、他人と接触をすることを好んでいなかったダニエルはフェリクスだけは無意識のうちに受け入れてきた。どのような行為を強いられても、ダニエルはその行為にはフェリクスの重すぎる愛が含まれていることを知っていたからなのだろう。
フェリクスは視線をダニエルに向けた。
与えられる快感を拒むことはしない。しかし、自尊心の高いダニエルは声を聞かれないように抑えようとしている。頬は赤く染まり、目には涙が溜まりつつある。
「ははっ、可愛いなぁ、ダニエル」
「んんっ」
「なに言ってるのかわかんねえぞ?」
否定をしようとしているのはフェリクスも理解をしているのだろう。
それでも、ダニエルを挑発するかのように声をかける。その間も両方の乳首を弄る手は止まらない。少しずつ強さが変わっていく行為に左右にされているダニエルはフェリクスを睨みつけるが、涙目になっているとは自覚をしていないのだろう。
……なに、笑って――!
文句を言いたくなってしまう。
負けず嫌いな性格が災いしたのだろう。ダニエルは衝動的に唇を抑えていた手を離した。その隙を待っていたのだろう。フェリクスはダニエルの唇と自身の唇を合わせる。
「んんっ!?」
先ほどのように口腔内を舌が絡み合う。
貪るように遠慮なくダニエルの口腔内を荒らす舌を拒めない。自然とダニエルもそれに応えるように舌を絡め合う。その間もフェリクスはダニエルの胸を揉んだり、乳首を弄ったりする手を緩めなかった。
……あぁ、やばい。
徐々に快感に頭を支配されていく。
強すぎる快感に逆らえない。既に勃起した自身は先走りをしており、下着が濡れていく不快感を抱く。ズボンや下着を脱がすことを忘れてしまっているかのようにキスに没頭しているフェリクスはそれに気づいていないのかもしれない。
……イきそう。
強い刺激と甘ったるい香りが頭の中を支配する。
フェリクスが好んでいる香水の残り香なのだろう。先日、部屋で香水の瓶を落として割っていたことを思い出す余裕はなかったが、それがフェリクスの匂いなのだと認識をする。
考え事をすることを許さないというかのように舌を甘噛みされる。
その刺激から逃げようとするかのようにダニエルは首を僅かに動かしたが、意味はなかった。フェリクスは逃がさないと訴えるかのように刺激を強める。
「んあっ!?」
唇が離された。
その途端、声が漏れた。ダニエルの目が見開かれた。とはいえ、涙でぼやけている視界にはフェリクスの姿しか映らない。余裕のない表情をしているフェリクスは再び唇を寄せる。
フェリクスはダニエルの口元を舐める。
その視線はダニエルを見つめていた。真っすぐに見つめられる視線から目が離されない。フェリクスの瞳に映る自分自身の姿を認識するのを拒むように目を閉じることすらもできず、ダニエルの身体は少しずつ震えていく。
「あっ……!!」
一番、高い声が出る。
下着の中で達した感覚が気持ち悪い。しかし、快楽に支配された頭は真っ白になり、なにも考えられない。与えられた快感を受け入れるしかできないダニエルの蕩け切った顔がフェリクスの瞳に映し出されている。それすらもダニエルの興奮を煽るかのようだった。
熱の籠った視線が身体中を支配する。
フェリクスはダニエルが達した姿を見て息を飲んだ。それから我慢ができないと言いたげな表情を浮かべ、洋服を脱ぎ捨てる。若干、汗ばんでいるのは興奮をしているからだろうか。一度、射精をしたことにより冷静な判断ができるようになったダニエルだったが、見慣れたはずのフェリクスの引き締まった身体を見て息を飲む。
……エロい。
男女関係なく引き寄せるだろう整った顔立ち、鍛えられた身体。欲望を隠さない表情は興奮を掻き立てる。なによりも、それらはすべてダニエルが独占をすることができるという事実を再認識した。
ダニエルの視線に気づいているのだろう。
フェリクスは気にした素振りを見せず、躊躇なくダニエルのズボンに手をかける。
「いっ、今はダメだ!」
「はあ? なんでだよ。気持ち悪いだろ?」
「そうだけど!」
「……着衣プレイの方が好きだったか?」
「違う!! 変な誤解をするんじゃねえ!」
この場には似合わない会話だった。
雰囲気を崩すようなことを口にするダニエルに対し、フェリクスは首を傾げた。しかし、手はズボンを下ろそうとしたままだ。抵抗をする理由を知りたいと訴えるかのように力が強くなる。それを阻止する為にダニエルはフェリクスの手首を掴んだ。
「ダッ、ダメだって!」
ダニエルが抵抗をするのには理由があった。
フェリクスが上着を脱いだ姿や彼の余裕のない仕草等、それらに見入っていたのが原因だったのだろう。先ほど、射精をしたばかりなのにもかかわらず、その興奮を隠し切れない自身は立ち上がっていた。それを見られるのが恥ずかしかったのだ。
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