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06-1.他人の理解など必要はない
* * *
自室に戻り、服を脱ごうとしたダニエルの腕を掴み、フェリクスは無言でシャワー室に向かう。浴槽のない簡易的なシャワー室に入ると服を脱ぐ間もなく水を出し、ダニエルにかけ始める。
「なにしやがる!!」
「綺麗にしてやろうかと思ってな」
「はあ!? って、冷たいんだよ!! やめろよ、このバカ!」
「あっ!? ぶはっ! やめろって! つめてえっ!」
「はは! ざまあみろ!」
シャワーヘッドを奪い取り、フェリクスの顔面にかける。
一人用として設計されているシャワー室の中、水をかけあって大笑いをしているのは異様な光景だった。ダニエルはフェリクスが寒いと騒ぎ始めた姿を見て笑いながら水をお湯に切り替える。
「俺も寒いんだよ、バカ」
ダニエルは上着を脱ぎ、開いたままの扉の外へ投げ捨てる。
頭から水をかけられたからだろうか。急激に冷えてしまった身体を暖めるようにシャワーに手を伸ばし、温度を確認する。それから温かくなったことを確認してからフェリクスにかける。
「あったけえわ」
「バカじゃねえの。シャワー浴びるんだろ。さっさと脱げよ」
「え? 裸が見たいのか?」
「見たくねえよ」
「そんなこと言うなよー。寂しいだろ?」
「白々しいことを言ってんじゃねえよ」
ダニエルは舌打ちをする。
それからシャワーヘッドを定位置に戻し、ズボンに手をかける。
「生着替えか。サービスが良いな」
「ふざけんな。お前の悪ふざけで濡れちまったんだよ」
口笛を吹いて茶化してくるフェリクスを無視して脱いでいく。遠慮なく身体を見てくる視線には気づいているものの、全身に水をかけられてしまっては脱ぐしかなかった。
……寒くねえのか、こいつ。
横目でフェリクスを確認するが、脱ぐ気配がない。
「ダニエル」
「なんだよ」
「洗ってやるよ」
フェリクスの提案に対し、思わず、黙ってしまう。
「断る」
「は? なんで」
「俺はさっさと出たいんだよ」
シャワーヘッドを掴み、髪を洗う。
その姿を見ているだけで動こうとしないフェリクスはろくでもないことを企んでいるのだろう。
「ふうん?」
納得がいかないような声だった。
それから面白いことを思いついたと言わんばかりの表情を浮かべ、ダニエルに身体を寄せる。視線はさっさと身体を洗っているダニエルの陰部に向けられている。
「水をかけられて興奮しちまったとか?」
「バカじゃねえの」
「でも、隠しきれてねえぜ?」
「チッ、触んな」
「酷い!」
フェリクスの悪ふざけに付き合うつもりはないのだろう。
ダニエルは手早く洗い流してしまう。それからシャワー室に留めようとするフェリクスの腕を叩き、さっさと開けっ放しになっていた扉に向かう。
「さっさと洗って出てこいよ」
腕を伸ばし、タオルを引っ張り出す。
「一回だけじゃあ満足できねえ身体にした責任をとれってことだ。そのくらい言われなくても理解しろよ、バカフェリクス」
「それって――」
フェリクスの言葉を最後まで聞かずにシャワー室の扉を閉める。
室内着を閉まっている場所がわからない為、無言詠唱で必要なものを引き寄せる。タオルを頭からかけていたものの、無意識に操っていた風属性の魔法により乾いてしまった。まともに使われることがなかったタオルを放り投げると風に乗り、洗濯物を入れる場所に向かっていく。
ダニエルは用意した下着を身に着け、室内着を手に取る。
そこで動きが止まった。
……着る必要はあるか?
今頃、フェリクスは物凄い速さで身体を洗っているだろう。
普段はゆっくりとシャワー室を使っているのだが、今はそんなことをしている余裕はない。数か月、いや、半年に一度あるかわからないダニエルからのセックスの誘いを逃すまいと急いでいることだろう。
……すぐに脱ぐなら必要ないか。
下着は身に着けた。
全裸で過ごす趣味はない。
……床に置かれるのも嫌だしな。
心の中で言い訳を並べながら椅子の上に室内着を置く。
ついでにフェリクスの分も用意しておいた。
「……恥ずかしいな、これ」
頬が熱くなるのを感じる。
ダニエルはセックスに対して意欲的ではない。不本意な事故が切っ掛けとなり強制的に同室にされたことにより、フェリクスに対して以前よりは素直に振る舞うようになった。とはいえ、ダニエルは毎日のようにセックスをしたいわけではない。
たまには行為には及ばず、抱き合って眠りにつきたい日もある。
それだけで満足できないのは、いつも、フェリクスの方だった。
……焦らされたのがいけなかったんだ。
シャワーを浴びる前に続きをしたかった。
ダニエルの気持ちを知っていながらも、躊躇なく水をかけ、そのままシャワー室で性的な悪戯を仕掛けようと企んでいることには気づいていた。
「あー、もう、さっさと出てこいよ、バカ」
フェリクスを待つ時間さえも惜しく感じてしまう。
ベッドに腰をかけ、目についたフェリクスの服に手を伸ばす。今朝、慌てて着替えをした為、脱ぎ捨てられたままになっていたのだろう。
気分を紛らわせるためだったのか。何も考えていなかったのか。
ダニエルは今朝までフェリクスが身に着けた室内着に腕を通す。そして、そのまま、頭を被った。可能な限り腕を伸ばしても袖から指しか出ない。下着を隠してしまう長さになってしまった洋服に対し、舌打ちをする。
……縮んでしまえ。
仰向けのまま、ベッドに倒れこんだ。
ベッドから降りたままの足を動かす度に下着が見え隠れしている。その一連の行動を隠れてみていたフェリクスは口元を手で押さえていた。隠せていない目元は緩んでいる。平常心を保とうとしているものの、それは不可能だった。
「なに、可愛いことをしてんだよ」
フェリクスに気付いていなかったのだろう。急に声をかけられて驚いたように目を見開いたダニエルは自身の格好を思い出し、反射的に両手で顔を隠す。
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