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06-4.他人の理解など必要はない

「やっ! やっ、めっ!」  目の前が真っ白になる。  達したばかりの身体は敏感になっている。再び絶頂に達した陰茎からは精液が飛び散り、フェリクスの腹部を汚す。瞬きを忘れたかのように見開かれた両目の焦点はあっておらず、反っている身体は軽い痙攣を起こしている。  開いたままの口からは喘ぎ声が漏れる。  赤く染まった頬を伝う涙は強すぎる快楽によるものだろう。 「ダニエル」  名を呼ぶ声は穏やかなものだった。  ダニエルの腰を掴んで離さない両手は肌の感触を楽しむように動く。 「ダニエル」  もう一度、名を呼ばれた。  焦点が合っていなかった両目がゆっくりと閉じられ、呼吸を落ち着かせるような仕草をする。強すぎる快楽から抜けることはできないだろう。 「俺だけを見ていろよ、ダニエル」  ダニエルの目が開けられた。  快楽に屈したダニエルの表情は蕩けている。 「フェリ……っ」  力が抜けた身体はフェリクスの上に崩れ落ちる。  与えられ続ける快感が逃げようとするかのように身体を動かすダニエルに対し、フェリクスは笑っていた。ゆっくりと腰を掴んでいた腕をダニエルの背中に移し、抱きしめる。 「このままだとキスをしにくいな」  器用に向きを変える。  ベッドに押し付けられたダニエルは抵抗をしなかった。 「愛している」  ダニエルの唇を奪う。  簡単に口の中に侵入をした舌を絡み合わせる。その間も腰を打ち付け、何度も絶頂を迎えているダニエルの中はフェリクスの陰茎を締め付ける。 「んっ」 「んんっ」  その刺激で達してしまった。  腹の中を満たすように放たれた精液を感じ、ダニエルは再び絶頂を迎えた。 * * *  身体中を貫くような激しい痛みで目が開いた。  昨夜の行為は途中までしか覚えていない。まだ眠たい目を擦りながら、ダニエルは隣で眠っているフェリクスの顔を覗き込む。  ……幸せそうな顔をしやがって。  フェリクスの頬に触れる。  ……綺麗な顔をしてるんだよなぁ。  寝顔を見るのは久しぶりだった。  同室になったものの、フェリクスは寝起きが良い。夜中に目が覚めない限りは寝顔を見つめる機会には恵まれなかった。 「……キスくらいしろよ」  反射的に声をあげそうになる。  寝言とは思えないはっきりとした声だった。 「起きてたのかよ」 「目が覚めただけだ。ダニエルが早起きなんて珍しいな、今、何時だ?」 「三時過ぎたところだ」 「あー、……まだ寝れるじゃねえかよ」  フェリクスは何度か瞬きをした目を閉じる。 「寝ようぜ、ダニエル」  抱き枕を抱き締めるかのような動きでダニエルの背中に腕を回す。  大きな欠伸をするフェリクスはすぐにでも眠りに落ちそうだった。 「それとも、ヤリ足りねえのか?」 「バカじゃないのか。お前のせいで身体が痛くて仕方がない」 「はは、そーか、そーか」 「眠いなら寝ればいいだろ。適当な返事をしやがって」 「んー、へーき、へーき」  欠伸が混じった声は眠気を隠せていなかった。  それでも、ダニエルを慰めるかのように背中を優しく撫ぜる。 「子ども扱いをするな」 「チビだもんなぁ」 「お前が大きすぎるんだ」 「あー、そーか。まー、いいだろ。気にしてねえし」 「俺は気にしているんだよ」 「そーか、そーか」  心地よい撫ぜ方だった。  小さい頃、大泣きをしていたダニエルを慰めていた時と変わらない。  ……なにも恐れることはない。  ダニエルを腕の中に閉じ込めるような姿勢が落ち着くのだろうか。フェリクスはそのまま眠りに落ちてしまった。  ……俺たちは、きっと、このままだ。  昨日、フェリクスが口にした言葉は本音だろう。  ……前世も同じだったのだろうか。  互いに対して強い執着心を抱いている二人は、互いの好意が他人に向けられるのを黙って見ていられない。快くそれを受け入れるようなことはしない。  手段を選ぶような余裕はない。  引き留められないと察すれば、その命を奪い取ろうとするだろう。  それすらも愛故の行動だと口にするのだろう。 「愛しているよ、フェリクス」  眠っているフェリクスの頬に口付けをした。

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