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第7話 駄目
恋が実ったら、その甘さを一度でも堪能してしまったら、もう食べたくて食べたくて仕方がなくなるだろうから、食べずにいるのが一番だと思った。
思っていた。
けれど実ったそれを食べたことがないと、いまだにその味を知りたくて、諦めきれずにこうしてダラダラとこの人と『手伝い」という形で似たものを啜ってるのかもしれない。
「やぁ……ン」
花は切らずにそのままにした。そして、日差しの下で見事に咲き誇っている百合に満足そうに笑う彼を自室に招いた。とても美味しい紅茶を買ってきてくれたから。それと紅茶に合いそうなお菓子も合わせて持ってきてくれたから。
自室には紅茶の香りじゃなくて、彼のつけていた香水の香りが漂う。普段はすごく近くにいかないと感じないほど僅かな香りだけれど、体温が上がってるから。それに、香りを感じられるくらい貴方の近くに、今、僕がいるから。
そして、甘い声が自室に溢れてる。
「あ、あ、あ……ぁ、ダメ」
僕の声。
つい昨日、一人でした時よりもずっとずっと甘ったるい蕩けた声。
「環、さんっ」
ベッドの上で身悶えながら、蕩けた声を溢して、片想いをしている彼の指に身体を柔く仕立ててもらってる。長い指に絡みつくようにしながら、中を切なげに締め付けて。胸にくっついた粒を濡らしてくれる、いつも不敵に微笑むその唇に夢中になってる。
「……あっ、や、だっ」
欲しかった。
すごくすごく欲しくて。
「環さんっ」
何度も何度も貴方の名前を呼んだんだ。
「あぁ」
だから、返事なんてしないで。
「ここにいるよ」
存在を意識させないで。
「雪」
僕の名前を呼ばないで。
「機嫌、直ったか?」
「機嫌? 別に僕は」
「請け負った仕事が立て込んでたんだ」
僕に言い訳なんてする必要ないでしょう? 会う約束をしていたわけじゃない。恋人でもないのに、会えずにいたことへの謝罪なんてしなくていいのに。
貴方にかまってもらえて喜ぶ自分がいる。
「今日は言う事、なんでも聞いてやる」
貴方に甘やかされて嬉しくなる自分がいる。
そんなんじゃ駄目なのに。
だから、どうか「手伝い」なんてしないでください。
「何して欲しい?」
「……」
でないと、貴方とじゃなくちゃイけなくなってしまう。
「別に、そんなの気にしないでください」
もう終いにしないといけないのに、終いにできなくなってしまうから。だから――。
「そう? じゃあ、身体の方がして欲しそうなこと」
「はぁ……ぁ、環さんっ」
「こっちに訊く」
貴方を引き寄せる僕の腕に答えないでよ。
「あっ」
彼が中を抉じ開けていく。
太くて、硬くて、昨日欲しくてたまらなかった熱。
「あ、あっ」
名前を呼んじゃ駄目。
彼に手を伸ばしちゃ駄目。
彼を欲しがっちゃ駄目。
駄目。
でも、すごく欲しかったんだ。
「イクっ……」
「っ」
貴方のことが、昨日、欲しくてたまらなかった。
前だけじゃ、足りない。ちっとも足りない。
奥がすごく悦んでしまう。嬉しそうに絡みついて、貴方の形になりたがってしまう。
「あ、はぁ、っっっっ」
「挿れただけで?」
「あ、やぁぁっ、ダメ、今、動いたら」
「可愛いな、雪」
「知、らな」
キスをしながら、環さんがもっと奥まで貫いた。
「やぁ……ン」
貫いて、引いて、また貫いて。部屋にやらしく濡れた音が響く。貴方に貫かれて嬉しそうにしてる。
「雪」
ゆっくりと中を何度も擦られて甘い声をあげる僕の名前を呼びながら、くん、って奥をノックされた。
「あっ」
指じゃ届かないところ。僕の知らない、僕の一番奥の。
「雪……」
「あ、あ」
貴方しか知らない場所。
「あ、あああああっ」
「っ」
腰を強く掴まれながら、そこを抉じ開けられ背中を逸らせながら、環さんの首にしがみついた。爪を立てて、奥まで貫く彼の熱に身悶えて。貴方に差し貫かれたいと、はしたないほどに脚を広げてる。貴方が欲しくて仕方がないから。
「雪」
キスして欲しい。
「ン……ん、ん、くっ」
舌先を絡ませて。唇を深く重ねて。
「んん、ン、ぁ、はぁっ……ん」
乳首を抓っていじめて欲しい。爪で引っ掻いて。キスで濡れた舌でそこも濡らして。舌で可愛がって。
「や、あっ……ぁ、あっ、乳首っ」
肌を噛んで。貴方の唇の痕をつけて。キスマークをつけて。
「あンっ」
このまま。
「雪」
このまま奥を何度も。
「あ、あ、あ」
激しくして。
「あ、はぁっあ、あ、あっ、環、さんっ」
「っ」
お願い。
「あ、環さんっ、環、さん……ぁ、あっ」
「雪」
僕の名前を呼びながら。
「環さんっ……」
「っ」
「あ、あ、あ、ああああああっ」
駄目、ってわかってる。そろそろ終いにして、ちゃんとしなくちゃって、わかってる。けれど、恋の味を知らない僕はそれはどんな味なんだろうって。どのくらい甘いのだろうって。
「あっ、ン……ぁ、すごいっ」
今、好きと言って、彼にしがみつくことができたら、それはどんな心地なんだろうと、そう思ってしまうから、まだ終いにできずにいる。
まだこの腕を離せずにいる。
「環さん」
「……雪」
僕のことを、まだもっとたくさん抱いてと、まだ、貴方のことを引き寄せ、ねだるようにしがみついたまま、まだ離せないでいる。
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