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第17話 キャラメルセックス

 ―― あぁ、そうそう、好きだって最初に言ってたらお前は逃げ出してただろ? だから言わなかったけど、でも。  あれは、僕のことを好きってこと?  彼が、僕を?  そんなの。  ―― 逃げても、俺はお前を捕まえてたけどな。 「やっぱり初めてはそれなりの場所がいいだろ」 「ちょ、あの」  鼻歌混じりで上機嫌な様子を隠さない環さんはタクシーを拾い、ホテルへと向かった。高級ホテル。そこの最上階の夜景が見事な一室まで手を繋いでエスコートされている間、ずっと僕は戸惑っていた。だって、少し前まで、この初恋は泡となって消えると思っていたんだ。 「は、初めてって」 「これからは隠さず出すから」 「は? あの」 「シャワー浴びよう。マジで汗かいた」 「ちょ」 「いつもはセーブしてたからな」 「なっ」 「お前のこと溺愛するの」 「できっ」 「もう我慢しないから」 「え?」 「頑張って? お前のことを、溺愛するの、我慢しないから」  話している間に慣れた手つきでジャケットを奪われ、ネクタイを解き、シャツもズボンも下着も、全て脱がされた。 「それと、お前、さっきからずっと片言」 「! だ、だって」  指摘されても変わらず片言なことに笑いながら、環さんが僕の首筋にキスを一つした。 「めちゃくちゃ可愛いな」 「!」  だって、さっきまでもう諦めなければいけない人の、忘れなければいけないと思っていた腕の中にいる。そんなの片言にだってなる。シャワールームの曇りガラスに背中を預け、互いに裸で、彼に抱きしめられているんだ。 「ホント、好きだよ」 「! ンっ」  言いながら、齧り付くようにキスをされ、僕の口の中を荒々しく弄っていく。深くて、激しくて。 「あっ……はぁ、はぁっ」  口付けだけで溶けてしまいそう。  それに――。 「雪」 「ぁ」  今までと全然違うキスに息を乱した僕の顎を指先で持ち上げて、じっと見つめられると、視線を逸らしたくてたまらなくなる。  だって、きっと今の僕はひどい顔をしてる。 「なんて顔してんだ」 「!」 「バカ」  環さんが僕のことを仕舞い込むように腕に閉じ込め、小さくそう呟いた。 「ぁ」  その言葉は暴言のはずなのに、掠れた声が、僕を独り占めするように攫ってくれた腕の強さに、それから僕よりずっと体温が高くなっている環さんの素肌に、僕は蕩ける。 「ぁ、環っさ」 「すげぇ、好き」  蕩ける。彼のその言葉に。生まれて初めての両想いに、トロトロに蕩けていく。 「あっあっ」  それはそれは見事な夜景を見せてくれる窓ガラスに縋り付く僕の手に環さんの手が重なる。 「やぁ、奥来ちゃ、ダメ」  後ろから抱きしめられて、深くまで貫かれて。 「雪、好きだ」 「や、あ、あああああああ!」  ガラス窓を汚してしまった。  バスルームで充分すぎるほど身体の中を解された僕は、感度が振り切れているんだ。  だって、キスも愛撫も今夜はすごく熱くて、すごく甘くて、その甘さに喉奥が焦げ付いてしまいそうなんだ。 「あっ……ぁ」 「雪」  今までのセックスと違う。 「手伝い」のセックスと全然違う。 「あ、今、イッたのに、待っ」 「もう、ずっと待ってた」 「あ、違う、そうじゃなくて、ぁ、ダメ、そこっ」 「雪」 「やぁぁ……ぁ、ン」  僕を呼ぶ声が違う。 「あ、やだ……乳首、いじっちゃ」  肌を撫でて、全身を可愛がってくれる指先も違う。乳首をキュッと抓られて、甘ったるい声をガラス窓に向かって零した。僕の口元のガラス窓が曇ってしまうくらいに呼吸が熱くて、その曇ったガラスを、窓に縋り付いていた僕の指が激しく後ろから貫かれた拍子に揺らされて拭い取った。 「あ、環、さんっ」  抱きしめられながら、髪にキスされて、奥がきゅんって切なげに環さんを締め付けた。くれるキス一つがもう違う。髪にだけじゃない、優しくて、それこそ全身へその優しいキスを敷き詰めるように触れられて、震えてしまった。 「はぁ、あ」  僕の身体を貫いてくれる環さんの、も……今までと違う。 「あ、はぁっ」  もっとすごく硬くて、熱くて、僕の中が彼でいっぱいになる。 「ん、ぁ、やぁっ」 「手伝い」で男の僕をそう何度も何年も抱ける訳がないだろって言ってた。 「雪」  僕だけだって、言ってた。 「雪」 「あ、あ、あ、あ、ダメ、また、そんなにしたら、僕」  抱いていたのは僕だけって。 「ガラス、また、汚しちゃう」  僕だけ、だなんて。 「あ、あ、あ、あ、イッちゃう」 「雪」  そんなの。 「好きだ」 「あ、あ、あああああああ!」  貫かれて、抉じ開けられながらの告白なんて、感度がおかしくなるくらいに嬉しくてたまらない。 「あ、はぁっ……はぁっ……ん、ン」 「雪」 「あっわ、ちょ、環さんっ」 「今度はこっち」  まだするの? だって、もうこれで。 「歩いたら中に出した俺のが溢れるだろ?」 「でも、重」 「重いわけあるか。こんなほっそい腰して」 「わっ」  抱っこだなんてされたことなかったから慌ててしまった。そして抱っこされたままベッドに押し倒されて、僕を組み敷く環さんの表情を見て、キュって胸のところが恋しさに溢れた。 「これからはもう悩みなんてないだろ?」  僕に、なんて顔してるんだって貴方は言うけど。 「これからは溺愛されまくりだ」 「あ、あぁ」  貴方こそ、こんな僕みたいな男を抱くのに、なんて顔してるんですか。 「雪、好きだ」 「あっ……ン、環さんっ」  そんなすごく嬉しそうな顔。

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