41 / 55

媚薬でトロトロ編 2 彼の我儘

「拓馬に男?」 「……えぇ」  環さんのその呼び方にぴくんって指先が反応してしまう。小さな、小さな、でもこんな小さな気持ちなら持たずにいたいのに。無視したらいいのに。  今みたいに、ぴくんって。 「まぁ、あそこにはそんなの入り込む隙間ないだろ」 「えぇ」 「それなのに気にかかるのか?」 「いえ、気にかかるのは拓馬さんじゃなくて、話しかけて……って、わかってるんでしょう?」  環さんはワイングラスを傾けながら笑ってる。食事を終えて、環さんはのんびりとワインを飲んでいた。明日はオフだからと。俺も明日は休み。兄である当主が休みで、残務もなかったから。  いや。  違う、かな。  環さんが休みだから、残務がないように仕事を片付けた。  一緒に休みが取りたいから。  僕は、そんなにワインは飲んでいないけれど、隣に座って、今日の出来事を話していた。 「ほら、わかってるじゃないですか。笑ってる」  俺が気にかかっているのは拓馬さんに話しかけてきた男の方だってわかってるのに、気がつかないふりをしてる。 「だって、お前が可愛い顔するからだろ?」 「してません」 「したね」  そう言って、環さんは、ほら膨れてるといいたそうに僕の頬を指で押してみせた。 「拓馬って呼ぶの、妬いてる」 「妬いてません」 「可愛いな」 「可愛くないし、妬いてませんってば」 「これからは拓馬君、拓馬さん、拓馬……うーん、なんて呼ぶのがいい?」 「今まで通りでいいです」 「いじっぱり。ほら、なんて呼んだらお前はヤキモチ妬かずに済む?」 「お好きなように呼んだらいいと思います」  こんなのことにいちいち反応するなんて子どもみたいじゃないか。今までならそのくらい我慢……できてた、かな。どうだろう。我慢はしただろうけれど、言ったりはしないだろうけれど、きっと心の中では、この人を取り囲む全部に、僕は――。 「もっと色々言っていいって言ってるだろ? お前の我儘なんて可愛いもんだ。もっと我儘になってくれて構わない」 「難しいことを言わないでください。僕には環さんみたいに上手に我儘できないんです」 「俺?」 「えぇ、環さんは我儘です」  我儘をするのが苦手な僕に我儘になれという、貴方の我儘。 「じゃあ……」 「!」 「これも我儘?」  笑って、軽々と僕を膝の上に乗せてしまった。 「ン……ぁ、ダメ、今日は、まだ、シャワーを」  浴びてないんだ。明日の休みをもぎ取るために残務を一生懸命にこなして帰ってきたから。帰ったら、すでに環さんがいて食事を用意してくれていた。食べ終わって、のんびりワインを楽しむ彼の隣に座って……だから、シャワーを浴びる隙がなくて。  まだ、だと思っていたから。  抱いてもらえるのは後で、ベッドで、してもらえると思っていたから。  シャワーを浴びてからにしましょうと、胸に顔を埋める環さんに訴えたけれど。 「あっ……ン」  シャツ越しに乳首を噛まれて、甘ったるい声が零れ落ちてしまった。 「ダメ……シャワーの後、に」  移動も多かったし、ホテルでの打ち合わせは空調が効きすぎていて少し暑かったから。 「ダ、メ……」  汗をかいてしまったかもしれない。ほんのちょっとくらい。僅かに。そんなの恥ずかしいのに。 「やだね……」 「っ……ン」  弱いのに。そこは。 「あっ……ン、乳首っ」  環さんの頭を抱き抱えて、いつも完璧なスタイルをキープしている髪をくしゃくしゃに掻き乱しても、シャツ越しの愛撫を止めてくれない。それどころか――。 「ンっはぁ……」  スラックス越しに撫でられて、頬が熱くなる。  片手はシャツ越しでも容易にわかるほど濡れて、硬く勃ってしまっている乳首を摘んで、もう片方はベルトを簡単に外してしまう。片手なのに器用に、手慣れた指先であっという間に前をくつろげられて。 「やぁぁっ、んんんんっ」  舐められるの、気持ちいい。 「あっ……ン」  環さんの口の中で溶かされてしまいそうになるの、気持ちいい。 「あっ、やぁ……ン」  今にも達してしまいそう。 「口に出せよ」 「や、だっ、あ、やぁぁ」  俺は我儘だからなって顔をしていた。 「や、あっ……意地悪、ですっ」 「意地悪じゃねぇよ」 「あっ……ン」 「明日はオフ、すげぇ楽しみにしてた夜に、ずっと向こうのバカップルの話ばっかするお前の方がずっと」 「あ、あ」 「意地悪だろ」  そう言って、悪戯を楽しむ子どものように笑う環さんの口に強く吸われて、キスに潤んだ唇を指先でなぞられた。それからキスで溢れた唾液をかき混ぜるように指をしゃぶらされて。 「ン……む」  その濡れた指が。 「あ、ダメっ…………」  後ろの孔に入っていってしまう。  ダメなのに。シャワーも浴びてない身体なんて、貴方にキスされるのはたまらなく恥ずかしいのに。 「あ、あ、あ、ん、やぁっ」  たまらなく気持ちいい。 「あ、んんんんっ」  抗えなかった。 「ン、んんんんっ」  ドクドクと環さんの舌の上で――。 「あっ……や……もぉ……」 「……雪」 「あっ……」  蕩ける。 「もう秘書の時間は終わっただろ? その怪しい男のことなんて後でにしろ」 「あっ」  ゾクゾクする。環さんの裸。 「俺のことだけ考えてろ」 「ンっ」  そして、ソファの上なのに、リビングで、シャワーも浴びてないのに、裸の貴方と肌が触れたら、もう。 「あっ……環、さんっ」  愛しい人の名前を呼ぶ自分の声が甘くて、物欲しそうに蕩けていた。

ともだちにシェアしよう!