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助っ人さん、いらっしゃい編 1 欲しいだけ
兄が、またおかしなことを言い出した。
「はい。よろしくお願いいたします。……えぇ、当日の詳細に関して、そのままでお願いします。それでは……失礼いたします」
電話を切って、ふぅ、と溜め息をひとつついた。
まったく……あの人はどうして、そう、毎度毎度変なことを思いつくのだろう。
やっぱり凡人には、ちょっと想定外な――。
「誰に電話? 電話の向こう、男の声だったな」
「ぁ……すみません。起こしてしまって」
「いや、もう雪が起きた時には起きてた」
この人もこの人で、超人的というか。僕、すごくすごく、そーっとベッドを抜け出したはずなのに。物音一つ立てずに、部屋を出たと思ったのに。けれど、この人にはそんな無音さえもアラームくらいに大きな音になって聞こえてしまうのかもしれない。それに僕の電話の向こうの声まで聞き取ってしまうなんて。そんなに音量上げてないはずなのに、電話の向こうの男性スタッフも特別大きな声で話していたわけではないのに。それでも起きてしまうし、電話越しの会話も察してしまう。きっとこの人にわからないことなんてないのだろう。たった一人、あの兄と肩を並べる優秀な人。
もちろん、僕のような凡人には到底。
「もうこんな時間か。朝食は俺が作るよ。雪はソファに座ってろ」
「いえっ、僕がっ」
慌てて、環さんの行く手を遮ろうとした。
「っ、わっ」
けれど、ちょっとだけ。
「悪い。無理、させたな」
「っ、っ、いえ」
その、ちょっとだけ。
「っ」
中から、ちょっとだけ溢れて――。
「っ」
身じろいだ瞬間、ぎこちなく停止した俺を受け止めてくれた。
「昨日、雪が今日オフだからって羽目を外し過ぎたな」
「っ」
気恥ずかしくて、僕のことを受け止めるように抱き締めてくれた環さんの胸に隠れるように顔を埋めた。
「っ」
欲しがったのは、僕なので。
昨日、たくさん貴方のことを欲しがったのは、僕なのだから、あまり気にしないで。
だって、この後、一週間、あの兄のせいで僕のスケジュールも超人的忙しさになる。別に忙しいのはいつものことで慣れっこだし、そんなのは大したことじゃないけれど。環さんの方がとても大きな案件が終わって、ひと段落っていうタイミングだったから。長期休暇だって取れそうなタイミングで、僕はあの変人兄のマネージャーとして過密スケジュールに同行しないといけない。
一緒に暮らしているのだから、別に僕が驚異的な忙しさだからって会えなくなるわけじゃない。帰ってくれば、今、仕事が落ち着いた環さんが出迎えてくれる。そう考えれば、環さんと一緒に過ごす時間は少なくなるわけじゃない、のだけれど。
ただ。
「雪?」
ただ、僕がそうしてとても忙しくなると、環さんは僕のこと、抱かないから。
「……っ」
僕は女性じゃない。だからそんなに労わらなくても壊れたりしないし、そんなに柔にできてない。なのに、絶対にそんな時は抱いてくれないから。
だから、昨日、その前にとたくさん欲しがったんだ。今日はオフだから、おねだりをしたら、その分だけ貴方のことをくれるから、ここぞとばかりに、中に、欲しいとたくさんねだった。
「まだ、奥に残ってた?」
「っ」
「……雪」
「っ、アッ……っ、ン」
「まだ、柔らかい」
環さんが俺のことを抱き締めて、そのまま、仕事の電話をするには少々はしたない格好、パジャマの上だけを着ている僕の後ろを指で触れてくれた。
「仕事の電話は、今の一本で終わり?」
「っ」
そう。
朝の早いうちに電話をしないと、繋がりにくくて。だから、朝、かけるしかなかっただけ。
こんな格好でふらふらとうちの中を歩き回っていたのには、別に、大した意味ななくて。
「ぁ、待っ、環さんはっ、今日っ」
「仕事はあるが、雪に美味い朝食を作って、一緒にシャワーを浴びて、この前、続きを気にしていたドラマを一緒に見えるくらいの時間はある」
「っ」
別に、こんなはしたない格好のままでいたのは、意味、ないけれど。
「だから、そのドラマの時間をまた今度に回しても、雪がかまわないのなら」
「っ」
「雪に美味い朝食を作る時間と、一緒にシャワーを浴びる時間の間に、雪を抱く、時間にしたい」
「あっ」
僕がオフの日、もしくはオフの前の日は、僕が欲しがったら、欲しいだけ、貴方のことをくれる。僕の好きに貴方のことをもらえる。
「……がいい」
「?」
朝からだなんてはしたない?
今さっき、一分前には仕事の電話をしていたのに、今、お腹の奥のほう、昨日、散々、貴方のを咥え込んだ奥を切なくさせてるなんて、いやらしい?
「ご飯の、前が……いい」
けれど、だって、今、もらっておかないと、しばらく貴方のこともらえないでしょう?
今なら欲しいだけ貴方のこともらえるでしょう?
だから、ぎゅっと抱き締めて、その腕の中、精一杯の甘えた声で愛しい人の名前を呼んで、キスをした。
「……ン、あっ」
だから、貴方の長い指がまだ昨日の名残のある僕の中を撫でて、柔さを確かめてくれることにとても悦んで。
「あっ……」
朝日が溢れるほど差し込むリビングで貴方に抱き抱えられて、刺し貫いてもらえるよう、首に腕を巻きつけて、火照る身体を開いてみせた。
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