62 / 70

助っ人さん、いらっしゃい編 3 脇役

 今日は、ここで写真撮影とインタビュー。それが終わったら、本業の花の仕事が三件、か。  兄がインタビューを受けているのを見守りながら、その背後にある、大人の背丈以上に育った、見事に葉を茂らせているエバーフレッシュを眺めた。あの樹型綺麗だな。仕立てた人、上手だしセンスがとても良い。  そのエバーフレッシュの葉の隙間から日差しが差し込んで、店内がまるで手入れの行き届いた庭園のようだった。  日差しがたっぷり入り込むガラス張りの大きな窓。  まるで温室にでもいるかのように大きく大胆な葉を茂らせる南国の植物、見惚れるほど樹形が綺麗なものから、葉の形が不思議なものまで、色々な観葉植物たちが嬉しそうにその葉を四方へ伸ばしてる。剪定をしっかり行わなければ、ただのジャングルの無法地帯になりそうなものだけれど、店内には日中なら照明がいらないのではと思えるほど、十分な光が入るよう上手に葉が調整されている。  上手いなぁ、この剪定。  そんなことをぼんやりと考えながら、上条家当主の様子を眺めてた。 「……」  ちょっと眠い。  朝からずっと予定が詰まっているせいか、少し眠気に襲われた。  あったかい。  まだ……インタビューは終わらないかな。写真撮影もこのままこのカフェで行うと言ってたし。  時計を見て、少し、眠気覚ましに風に当たろうと思った。  外に出ると一瞬で、そうだった、ここはジャングルじゃなくて日本だったって思い出す。  この辺って……たしか。 「……」  そうだ。  この辺りって、環さんの事務所からそんなに遠くない場所だ。  このお店の前の通りをずっと歩いていくと、ほら、大きな通りにぶつかる。その通りをずっと進めば、環さんの事務所がある。  そんなことを考えながら、ふらりと、何気なく歩いていくと、小さな花屋を見つけた。両隣を細く高いビルに挟まれて、窮屈そうな隙間に小さなお花屋があった。  中を覗くと、花が溢れるほど置いてある。  店の前には店主が作ったのかミニバスケットにアレンジブーケがいくつか入っていた。 「えっと……あわわわ」  ガラスの扉もなく、開放された店の中から、女性の慌てた声が聞こえた。 「えぇ……えっと」  花が絡んでしまってるんだ。 「え、え」  あ、ちょっと、そんなに無理に引っ張り上げたら、枝から折れてしまう。 「失礼」  思わず、声、かけてしまった。  声、かけられた方も驚いて目をパチパチとさせている。 「それだと、花が折れてしまうので」  霞草は特に絡みやすいから。小さな花がいくつも咲いて、見た目はとても優しく華やかな気持ちにさせてくれるのだけれど、その分、枝分かれがすごくて、すぐにそうやって絡んでしまう。そして少しでも手荒く扱うと、ポロポロと花が落ちてしまう。  かわいそう、だから。 「一旦抜いて」  広いところで、そっと、解いてあげると、ちゃんと、ほら。 「どうぞ」 「あ、ありがとうございますっ」 「いえ、すみません。差し出がましいことを」  驚くでしょう? 知らない人が急にこんな手伝いをしたら。 「レッドシー、珍しくて」 「!」  かすみ草は白が多い。それから染め上げのものも多く流通している。青色、ピンク、黄色にオレンジ、たまに一つの枝咲きで七色になっているものもあるけれど、レッドシーと呼ばれる品種はそれとは全く別。染め上げではなく、本来の花の色が淡く、けれど、少し艶っぽいピンク色をしている。 「ドライフラワーにすることが多いけど、僕も生花としてこの花好きなんです。アルタイルもあるなんて、珍しい」  アルタイルもかすみ草の一種。花のボリュームがあって、まるで牡丹雪みたいになる。これもすごく珍しいと思う。基本的にかすみ草って主役で扱われることがないからか、添え物というか、かすみ草はよく誰もが想像する、あの白い小さな花のものが多いけれど。 「珍しい花、たくさん扱ってるんですね。ブルドゥパルファム、このレッドシーと合わせたらとても、って、ごめんなさい」  花の艶やかさにつられて、思わず、知らない花屋で興奮してしまった。  ほら、彼女もポカンとしてしまってる。  何この人、でしょ。 「し、失礼しました」  つい、夢中になってしまった。  恥ずかしい。  慌てて、頭を下げて。 「あの、このレッドシー、包んでいただけます? ちょっと花が溢れてしまったし」 「!」  お店に入って、イタズラに花を触って、それでは申し訳ないと今、抜いた二本のレッドシーだけ買っていこうと思った。小さくまとめたら、これだって主役になる素敵な花だから。 「あ、あのっ、お花、詳しいんですねっ」 「え、えぇ」  そりゃ、僕は。 「あのっ、このお花屋さん、おばあちゃんのなんです」  彼女はフローリスト、と英語で綴られているエプロンをぎゅっと握り締めた。 「でも、おばあちゃん、今、ちょっと転んで入院してて。その間だけでも手伝おうと思ったんですけど、全然わかんなくて、どうしようって。あのっ」  真っ直ぐ、一生懸命に。  いや、少し、必死に。 「あのっ、差し出がましいのですがっ、お花のこと、教えてもらえないですかっ!」  そんな彼女に声に僕も花も驚いて、春の風にふわりと花が揺れていた。

ともだちにシェアしよう!