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助っ人さん、いらっしゃい編 4 類は友を呼ぶ
変な、ことになってしまった。
「……」
―― お花のこと、教えてもらえないですかっ!
だって、あんなふうに必死に言われてしまったら、さ。
――す、すみませんっ。急におかしなこと言って。
でも、どうしたらいいのかと本当に困った様子で呟いていた。
あの花屋を営んでいるのは祖母なのだと教えてくれた。その祖母が倒れたのが一昨日の夜、と。とりあえず、倒れてしまった翌日はお店を閉店させていたのだそうだけれど。その夜に、入院中に必要だろう着替えやら日用品を準備しに自宅兼店舗になっている、あのお店にやって来たら。
――花がなんだか元気がなさそうで。お店、閉めておくのが一番良いって思うんですけど……。
そう言って、悲しそうな顔をされたら、さ。
「はぁ、あぁ……もぉ」
なんでそこで「すみません」の一言が言えなかったのかな、僕は、もぉ。
――じゃあ、三日間だけなら。
そう言ってしまった。
だって、彼女、困っていそうだったし。
別に本当に三日間、暇ができたから、気まぐれにいいかなって。
兄が当主の仕事を休んでいるのなら、僕も帯同などする必要がない。その三日間で僕がやる仕事といったら、メールのやり取りくらいなものだろう。
でも、別に、と思ったんだ。
それに――。
「ただいま」
「!」
「お、今日は早かったんだな」
環さんが帰宅してすぐに僕を見つけてにっこりと笑って、ネクタイを緩める。
いちいち、かっこよくて絵になる人だ。
「? かすみ草、か?」
「あ、はい」
「へぇ、珍しいな白じゃないのか」
「えぇ、今日、見つけて」
テーブルには昼間に買ったかすみ草、それから、午後、兄が活ける仕事が入っていたから、そこでおこぼれにいただいた葉を付け足して、小さなブーケに仕立ててみた。
「今日も帰りが遅いかと思った」
「ぁ、いえ、今日は」
「また、敦之の奴がおかしなことを言い出して、大変だな。雪も」
「……えぇ」
そう、兄のおかげでここのところスケジュールは多忙を極めていた。たったの三日とはいえ、元から忙しい人だから、急遽、三日のオフを確保するとなると、とても大変なことになる。単純に、その三日間の分を先送りして片付けてしまおう、なんてシンプルな話ではなくて。三日間のうち、先に済ませられるものは、三連続休日の前に。それが不可能の場合は後に回られる。けれど、後にも元から予定はびっしりあるものだから、ただプラスで仕事が増えました、では済まない。またそこから別日に予定をずらさなければいけなくて……と、まるで立体のキュービックパズルのように、全てがずれ込んでくる。
だからとてもこの三日間のためにずっと大変だったのだけれど。
「でも、これでしばらくゆっくりできるだろう? よかったじゃないか」
そう、ゆっくりできるはず、だったのだけれど。ゆっくり休もうと思っていたのだけれど。
「「この三日間、」」
ほぼ同時に同じことを切り出して、僕らは目をパチパチと瞬かせた。
「どうぞ、先に雪から」
環さんは穏やかに笑って、僕に先に話してと、ソファにゆっくりと腰を下ろした。
「……あの」
「?」
「その三日間なんですけど」
「? あぁ」
「あの……その」
ゆっくりしたかったのだけれど。でも、あのお花を見たら、断れなかったんだ。
おばあちゃんが退院して戻ってくる頃にはもうほとんどのお花が商品としては扱えなくなっているだろう。満開に咲いてしまったものは、長く楽しむことはできないから。
「ちょっと、お花屋さん、の手伝いを、しようかなって」
「……はい?」
びっくり、するに決まってる。
まぁ、そうですよね。
僕も、もしも僕が環さんなら、何を言っているんだ? ってなると思うもの。
何を言い出すんだ? って。
「そ、その、今日、兄が雑誌のインタビューを受けていて、ちょっと散歩してたんです。あ! あの、環さんの事務所に近いところなんです。で、ふらふらと歩いてたら、そこにすごく小さなお花屋さんがあって……」
そのお花屋さんの主人が倒れてしまったらしい。そのお孫さんが、お店を代わって切り盛りするはずだったのだけれど、花の扱いが不慣れな人で。
「ちょっと、お手伝いをしよう、かと」
「……」
「あ、あのっ、もちろん無理はしないですっ。それに三日間だけ、なのでっ」
大丈夫。多忙なのはいつものことだから、きっと三日も休みがあっても持て余してしまうだけだったと思う。体力には自信があるんです。だから、全然平気。
「お花、活けたことがないらしくて。ブーケの作り方とかもよく分かってなくてっ。それを教えて欲しいと言われたんですっ。あの、えっと」
「……本当に、雪は……」
「す、すみません。あ、あの、それで環さんの言いかけたことって」
この三日間、って言っていた。
「ちょっと待て」
はい。わかりました、と、ソファにちょこんと座ったまま、目の前で急にスマホを取り出し、何かメッセージ? を打ち込んでいる環さんを眺めていた。
そして、しばらくすると、そのスマホをテーブルに置いて。
「この三日、俺も休みを取ろうかなと思ってた」
「え!」
「いや、今、ちょうど仕事もそんなに忙しくないから、サプライズでどこかホテルを取って。そこでゆっくり過ごすのもいいかと思ったんだ」
そう、だったなんて。
「そんなっ、ごめんなさいっ」
「別に俺が勝手にしたことだから気にするな」
「三日間、休み取ってくれたのに。僕、やっぱり断って」
「いや」
「けど」
「ホテルよりずっと楽しい三日間になりそうだから気にするな」
「でもっ、え?」
そこで気がつけばよかった。
環さんは、うちの突拍子もなく、おかしなことを言う、変わった兄の大親友だったのだと。
「楽しいって、一体……」
環さんも、僕なんてものを溺愛する、ちょっと変わった人だと。
「? 環さん」
気がつけばよかった。
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