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助っ人さん、いらっしゃい編 9 夢
朝起きて、一緒に朝食を済ませて、お店へ向かう。
お店は自宅兼、にしてもいいかもしれない。二人で市場までドライブをする。この時期ならこの花がいい。あの花の香りが僕はとくに好きなんです、とか話しながら。まだ少し眠そうにしている街を彼と一緒に車で走っていく。
帰りの車の中は買い付けた花たちから甘く優しい香りで溢れて。
お店を一緒に開けて、いつものように過ごしていく。
水揚げに、水換え、店内の掃除も一緒に済ませてから、どちらかが配達に行って。その配達の帰りにパンでも買って帰ろう。お昼を一緒に済ませて、夕方、外に出していた植木鉢たちを店の中へと戻して、一緒に住居の方へと戻っていく。
一緒にうちへ帰ってくる。
一緒に夕飯を済ませて。
一緒にシャワーを浴びて。
一緒のベッドに横たわって。
疲れるのも一緒。面白いエピソードも一緒に味わって。その日、その日で同じだけ日差しを浴びて、同じだけ雨の憂鬱さを感じる。
そんな毎日。
「三日間終わったな。明日から、忙しそうか?」
「そうですね。一応、前倒しできるものはしましたけど……」
そんな毎日、いいなぁ、なんてちょっと思ってしまった。
「でも、激務になるのは兄なので」
もちろん、そんなのは無理だけれど。僕に当主になるような才はないし、僕は補助くらいがちょうどいい器だと自覚している。もちろん、それを僕は喜んで引き受けたのだから。別の道を羨むことも全くない。今、僕ができるこの仕事に誇りも持っている。
けれど――。
でも、それは僕のわがままでしかないし、本当に今、そうなって欲しいと望んでるわけじゃない。
僕に三日もの貴重な時間をくれたけれど、環さんも兄と同じ器を持っていて、彼にしかできない、唯一の仕事をしている。
花屋、で収まってしまったらもったいない器を。
「楽しかったな」
とてももったいない器を持っている人。
「花屋、なりたかっただろ?」
「?」
「言った本人が忘れたのか?」
「……」
「言ってたぞ。大昔だけどな。本当にまだ小さい頃だった」
僕が?
「ほっぺたぷにぷにだったな」
「!」
そう言って笑って、環さんが僕の頬を指で突いた。
僕、花屋になりたいなんて、言ったことが?
ううん。
そんなことを言った覚えはないけれど。
言った? のかもしれない。
思ったりは、したことがあったから。本当に小さい頃だけれど。花卉農家でもいい。とにかく花に無邪気な気持ちで触れられる仕事をしたいとずっと幼い頃に思っていた。多分、最初にそれを思ったのは市場に父に連れられて行った時だったと思う。
あんなに溢れんばかりの花に毎日囲まれて過ごせる。なんて幸せなのだろうと思ったんだ。
僕には上条家の花の技術を体現する器も才もなかったけれど、花はとにかく好きだったから。
花に触れる、才も器もなくていい、必要なのは花が好きという気持ちくらいで十分なのが羨ましかった。
もちろん、それを明確に思ったのは、環さんが今言っていたような幼い頃のことじゃないけれど。
幼い頃はただただ無邪気に花に触れられる「お花屋さん」になりたかったというだけで。
「だから、たった三日間でもそれが叶って嬉しかったか?」
「……」
「まぁ、そこに俺も混ぜてもらいたくて、今回、一緒にやらせてもらったんだ」
なんで、そんなこと。
「もう一つの未来、ってやつだ」
「……なに、言っ」
「お前が上条家の家業に関わらず、どこかで花屋になるのなら、一緒に花屋になろうかなと思って」
「! な、何言っているんですかっ、弁護士っ」
そこで、ただふわりと微笑んでいる。
そんなのもったいないでしょう? 弁護士になるような人がただの花屋なんて。大きな弁護士事務所を構えて、数人の弁護士を雇って、たくさんのアシスタントがいるような、有能な弁護士。もちろん、貴方に救われたと感謝している人だってたくさんいる。
そんな素晴らしい人が、そんな素晴らしい仕事を選ばないなんて。
「まだ小さかったが」
そんなもったないこと。
「お花屋さんになりたいって、目をキラキラさせて語る雪が可愛かった」
あってはならないのに。
「だから、この三日間でも自分がなりたいと無邪気に思っていたものになれて、俺はそんなお前の隣にいて。お互いに幼い頃の夢が叶ったなって」
けれど、貴方があまりに嬉しそうに微笑んでから、そんな幼い頃の名残りはもうほとんどないだろう僕の頬に優しく触れてくれるから。
「俺は楽しかったよ」
「っ」
「それに、花のことを教えて欲しいって言ったのが、彼女、って聞いて、これは牽制が必要だなと思ったんだ。まぁ、それが男でも、それはそれで牽制しに行ったけどな。手を出すなよって」
とんでもないです、と思うよりも、貴方にそんなことを思ってもらえたことが嬉しくて。
「もう、牽制ってなんですか。そんなの必要なわけないでしょう?」
また、もっと好きになってしまった。
「必要だろ。こんな美人、男女関係なく引っかかる」
「引っかかるって、人聞きの悪い。まるで詐欺師みたいに」
もっともっと愛しくてたまらなくなってしまった。
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