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第2話
龍川絢瀬はsubだった。
けれどそんな自分が恥ずかしくて、自分の理想とする男像に近付きたくて、学生時代は野球に打ち込んだ。
おかげで体格だけは立派だったが、やっぱり本心では誰かに支配されたいと思っていた。
domもsubも希少な存在だ。
惹かれる相手が現れず、絢瀬も四十歳を過ぎたころ会社から辞令が出て部署を異動した。
部長という立場になり人から頼られるようになった。
仕事は真面目にするタイプなので真摯に取り組んでいると同僚には『良い人』だと判断されたようで、初めての飲みの席で色んな人から酒を注がれて酔っ払ってしまった。
そんな絢瀬を助けてくれたのはdomの千隼だった。
そこからの二人の関係は目まぐるしく変化した。
酔っ払ってしまった絢瀬を千隼が支えながら自宅まで送ってやる。
一人暮らしにしては広い間取りは、一緒に暮らすには十分だなと千隼は思った。
スーツを着たまま寝るのは寝苦しいだろうと思い、フラフラな絢瀬のジャケットを脱がせる。
「い、いいよ、大丈夫。自分でできる」
「俺がしますよ。フラフラじゃないですか」
「できるから、大丈夫だから。」
絢瀬は焦って脱ごうとしたが、やっぱり足元が覚束無い。
千隼は小さく息を吐き、ジッと絢瀬を見つめた。
「stay 」
「──ッ!」
そしてコマンドと呼ばれる『指示』を出す。
絢瀬は咄嗟に動きを止めた。それはsubの本能だった。
そんな絢瀬を見て千隼は彼がsubであると確信した。
そっとジャケットを脱がせてハンガーに掛けると、未だ止まったままの絢瀬にフッと笑う。
ゆっくりと乾いたままだった千隼の心が潤って、同時に絢瀬も初めての感情を抱いていた。
「goodboy 」
「っ、はぁ……」
千隼は絢瀬に近づきそう言って頬を撫でた。
途端、絢瀬も心が温かくなったのを感じてうっとりと表情を蕩けさせる。
「龍川さん。貴方subでしょ」
「……そう、です」
「俺はdomで、唯一貴方を満たしてあげられる存在です。逆に貴方は俺を満たすことができる。」
「……」
「俺達、付き合いません?」
「……お願いします」
絢瀬が頷くと、千隼はホッとした。
そしてまた一つコマンドを出す。
「kiss 」
「ぁ……そ、れは……」
「ダメ?」
「……ダメじゃ、ないです」
たっぷりと時間をかけて、唇同士が触れ合う。
その感覚が気持ち良くて、二人とも貪るように唇を交わした。
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