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第6話
翌週、千隼は職場に向かっていた。
定時前に着いて準備をしていると、キャーと黄色い声が聞こえてきて何事だと思う。
気になっていると隣の席の後輩──奥野が「あれ、気になります?」と千隼に話しかけてくる。
「龍川部長。指輪つけてきたから恋人ができたんだって盛り上がってるですよ。」
「指輪?」
「はい。それも結構値の張るやつらしいです。部長、人気だから皆ショックみたいで。」
「……へえ」
千隼は黄色い声の中央に絢瀬を発見した。
困ったように笑っている。
ふと目が合って、口角を上げて笑ってやると、絢瀬は少し焦ったように中央から抜け出し、自分のデスクに腰を掛けていた。
「部長の恋人ってどんな人なんでしょうね。」
「そうだな」
「優しい人なんだろうな。ふわふわした可愛らしい感じの」
千隼は思わず奥野の言葉に笑ってしまい、奥野に不思議がられたけれど、『決してふわふわした可愛らしい人間ではないと思うぞ。』と言いたいのを堪えて「何でもない」と笑った。
■
「溝口君、ちょっといいかな。」
「あ、はい。」
一度休憩しようと伸びをした時、絢瀬に声をかけられて立ち上がった。
絢瀬について行くと物置倉庫として利用している部屋に着いて、千隼は首を傾げる。
「あの、部長。何か?」
「……朝のこと、弁解させて、ほしいです……。」
「弁解?」
「俺は別にああいう風になるとは思ってなくて、ただ……あの、カラーを着けてただけで……」
なるほど、と千隼は頷く。
どうやら絢瀬は、朝目が合い笑みを向けられた時、自分が女性に囲まれていることに対して、千隼が怒っていると思ったらしい。
千隼は怒るどころか、絢瀬に恋人がいると周知されたことで牽制ができて気分が良かった。もっと欲を言えば『溝口千隼の恋人』だと知られたかったが。
けれど千隼はこの状況がなんだか面白くて、焦る絢瀬をまた小さく微笑みながら見詰める。
「カラーを外すのはやっぱり不安で、無いと安心できないから着けてきたんだけど……外せって言うなら、はずし、ます……。」
「外したくないなら着けとけばいい。俺は怒ってないよ。絢瀬に恋人がいるって皆に知ってもらえて気分が良い。」
「え?」
「確かに女性に囲まれていたって……それだけの情報じゃ怒っていたかもしれないけど、何でそうなったかの理由がわかっているから大丈夫。絢瀬も気にしないで」
千隼がそう言うと絢瀬は明らかに安心した表情をしてみせた。そんな彼がやっぱりどうしても可愛い。
千隼は「kiss 」と言い、絢瀬から唇を重ねるように指示を出し、そしてその通りに動いた彼に胸を高鳴らせた。
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