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第7話

仕事を終えて千隼が帰宅準備を進めていると、絢瀬はチラチラと視線を彼に向けてきた。気になって顔を上げた千隼。けれど絢瀬は視線を逸らす。一体何なんだ。 「じゃ、お先失礼します。お疲れ様です」 「──っ!」 絢瀬は隠れてなんとも言い難い表情をしたが千隼は気付かず、会社を出てエレベーターに乗ろうとする。 そんな時スマートフォンが鳴ってエレベーターを見送り、ホールで絢瀬から掛かってきた電話に出た。 「もしもし」 「ちょっと、待っててほしい」 さっきはどうやらそれを言いたかったみたいだけれど、同僚がいる手前言えないでいたようで。 「わかりました。俺、駅前のカフェ行ってます。新作のドリンクが出たみたいで飲んでみたかったから。」 「うん!片付けたらすぐに行くね」 「はーい」 電話を切り、駅前のカフェに足を向けて歩いた千隼は、新作のドリンクのことと、わざわざ電話をかけてきて引き止めるくらいの話があるのだろうか、と絢瀬のことを考えていた。 カフェに入りドリンクを注文して待つ。すぐに出てきた品物を受け取って窓際の大通りがよく見える席に座った。 千隼は絢瀬の従順で懐けばとことん相手が夢中になる性格を可愛いと思う反面、厄介だなとも思っていた。 自分だけにそうならいい。けれどそれが他人にも向いたら……気分が悪い。 一人で勝手に苛立ち、それを甘いドリンクで抑えようとズズっと糖分を飲む。 遠くから走ってくる人影が見えた。 千隼はそれが絢瀬だと気が付いて、苛立ちを抑えようとしたけれど彼に肩を叩かれてもまだ収まらないまま、振り返って絢瀬を見る。 「っえ、ぁ……怒ってるの……?」 「いや、ちょっと苛立ってるだけ。絢瀬には怒ってない」 「あ、の……グレアが、怖くて……」 「……ごめんなさい。ちょっとだけ待って」 顔を青くしている絢瀬を見て『まずい』と思い、千隼は深く呼吸をして気持ちを落ち着けた。 「ごめんなさい。もう大丈夫。絢瀬は大丈夫?」 「大丈夫だけど……どうしたの。何か嫌なことでもあった……?」 「考え事してただけです。それで、俺を引き止めた理由を聞いても?」 「あ……いや、えっと……」 また言い淀む絢瀬に千隼は困ったな、と思う。 人目がなければコマンドを出して無理矢理にでも言わせられるけれど、今はできない。 隣に座る絢瀬の手にそっと手を近づけ、指先に触れる。 「絢瀬」 「ん……あの、ただ一緒にいたいな、と……」 それを千隼の行動から察した絢瀬はただ彼に名前を呼ばれるだけで思いを吐き出した。

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