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第8話
「家、来ない……?」
「行ってもいいけど……何もしないよ。明日も仕事だし。」
「一緒にいれたらそれでいい」
普段はハッキリとものを言わないくせに、今に限ってしっかり言葉にした絢瀬に千隼は少し驚いて、そして喜んだ。
手に持っていたドリンクはもうお腹がいっぱいで飲めそうにない。『店を出よう』その合図にぐいっとドリンクを絢瀬に押し遣ると嬉しそうにそれを飲み干した。
二人で店を出て絢瀬の家に向かう途中、ドギマギしている彼が面白くて、千隼は見ていて飽きなかった。
家に着くと、会社とは全く違う絢瀬が現れる。
玄関で膝を折り千隼の靴を脱がして揃える。ジャケットを預かってハンガーにかけて……そうして千隼に尽くすのが幸せで、絢瀬は嬉々として動いた。
「あの……俺、そこまで求めてない。」
「……嫌?」
「嫌ではないけど、絢瀬の負担が増える。」
「負担じゃないんだ。」
「……まあ、いいけど。さすがに靴は自分で脱げるから」
でもまあ、褒めてあげなくもない。こういう少しのことを褒めてあげないと、サブドロップになる可能性が少しずつ蓄積されていってしまう。千隼はそう思って絢瀬を手招きする。
「絢瀬」
「うん。ごめんなさい」
「いや、ありがとう。」
「!」
そして傍に来た絢瀬にキスをする。
絢瀬はへにゃりと破顔した。
「お腹は空いてない?さっきのドリンクでお腹いっぱい?」
「うん。もうはち切れそう」
自分のお腹を撫でながら下唇をツンと出して言った千隼に絢瀬は微笑む。
「絢瀬は?お腹すいてるんじゃないの?」
「俺もさっきちょっと貰ったから大丈夫」
「そう。……美味しかった?」
「甘かった」
「甘いのは苦手?」
「苦手じゃないよ。好きでもないけど」
千隼はゲッと顔を顰めて俯いた。
「……ごめん」
「ううん。嬉しかったから」
絢瀬はほんのり笑って首を振った。
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