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第9話
何をするわけでもなく二人で過ごす時間は、絢瀬にとっては幸せで、千隼の傍に大きな体を小さくしてちょこんと座る。
チラッと彼を見上げて、それに気付いた千隼が「何?」と聞きながら絢瀬の髪を撫でた。
「今日は帰る、よね」
「明日の服が無いから帰らないと」
「……俺のシャツ着れないかな」
「大きいから無理だよ」
「前に着てたやつとか……」
ダメかな、と見上げてくる絢瀬に千隼は胸をキュンとさせた。
「ジャケット着るし、多少大きくても隠れるんじゃないかな?」
「……そんなに俺に居てほしいの?」
「うん。プレイとかじゃなくて、一緒に寝るだけ。恋人ならそういうのもあっていいかなって……」
千隼は悩んで、そして負けた。
突然始まった恋愛だけれど、着々と絢瀬への好き度が増している千隼は、そもそも絢瀬に勝てるわけが無くて。
「わかった。コンビニ行って下着買ってくる」
「あ、一緒に行くよ。」
「じゃあついでに何かつまめるものでも買う?さすがに絢瀬が何も食べないのは気になるし、かといって作る程お腹は空いてないんでしょ?」
「うん」
絢瀬は容姿端麗なので、四十代ではあるけれど惚れてしまうくらい可愛い。
笑顔で頷くから破壊力もあって、そんな眩しい絢瀬に千隼はヤレヤレと顔では言いつつも内心ニッコニコだった。
スーツを着ていた千隼は絢瀬に服を借りてラフな格好に着替えた。
サイズが全く違うので少しヘンテコだけれど仕方がない。どうせコンビニに行くだけだ。
家を出て近くのコンビニに入り、下着と歯ブラシ、それからつまめるものとお酒をカゴに入れる。
「絢瀬、他は?何もいらない?」
「うん。あ、お酒も買うの?」
「買う。絢瀬も飲もうよ」
「じゃあ一本だけ」
千隼がカゴを持っていると、絢瀬にひょいと取られてしまった。そのままスマートに会計を済ますので、千隼は呆気に取られる。
気が付けば会計は終わっていて、千隼は少し情けない気持ちになった。
「ほとんどが俺の物なのに何で絢瀬が払っちゃうかな……。帰ったらお金払わせて」
「俺がお願いして泊まってもらうわけだし、気にしないで」
「気になるから言ってる」
「……でも俺も自分用に買ったものがあるから」
「それってお酒とつまみくらいでしょ?」
立ち止まった絢瀬は少し申し訳なさそうな顔で千隼を見上げる。千隼ははてなマークを頭の中に浮かべて首を傾げた。
「ゴムを買った」
「……ごむ」
「コンドーム」
「こんどーむ」
「しなくていいって言ったけど、ちょっとだけ期待して……」
段々と顔を赤くしていく絢瀬につられ、千隼も顔を赤く染めて、それを隠すように両手で覆う。
いつの間に買っていたんだ。
「……かわいい」
そして絢瀬には聞こえない程小さな声で思わず言葉が溢れた。
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