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第13話
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絢瀬は昔から穏やかな性格だった。
そんな彼はどこでも好かれて、新しい部署でもすぐに馴染んだ。
それはいいことなのだが、千隼は今しがた許し難い現実を目の当たりにした。
絢瀬が会社で女性にベタベタと触られている。それを満更でもなさそうに受け入れる彼の姿が信じられなくて、何度も瞬きをした後、やはり変わらない光景に千隼は眉を顰めた。
「……あの女は何?どういう関係?」
「っ!」
準備を始めようとした日の夜、家に入ると突然グレアを浴びせられた絢瀬は腰を抜かして玄関に座り込んだ。
「絢瀬にベッタベタ触ってたね。何で?」
「あ、の……」
上手く声を発せない絢瀬を見下ろして、千隼は腕を組む。
「あの人、絢瀬に気があるみたいだけど。」
「ぁ、お、おれは、無い……っ」
「そうかもね。でもさ、よく考えて。絢瀬はSubだ。彼女がDomだったら?絢瀬に気が無くても命令 されたら従っちゃうね。」
千隼は酷い言葉を言って絢瀬を悲しませる。
本能に逆らうのは難しい。
絢瀬は悲しそうな顔をして俯いた。
「あの人、カラー見えなかったのかなぁ」
「あ……」
「こんな目立つところにしてるのにね」
膝を折り、床についている絢瀬の左手を取った千隼。
薬指にある指輪にキスをすると絢瀬はぶわっと一気に顔を赤くした。
「もっと目立つところに、恋人がいるよって証つけておく?」
「いいの……?」
絢瀬の言葉を肯定だと理解して、返事をするより先に彼の首筋に顔を寄せガブッと噛み付いた。
「いっ!」
「あはは、歯型くっきり」
「っん、ぁ……ッ!」
「キスマークも綺麗についた。これ隠さないでいれるかなぁ。こんなの隠しもせずにいるの破廉恥って言われて嫌われちゃう?」
千隼の言葉に困惑していると、顔が目の前にやってきて絢瀬はぼんやりと目を合わせる。
「明日だけ、隠さずにいれる?明日の朝、デスクに座るまででいい。座ったら隠して。焦った風にね」
「でも……」
「それができたらたくさん褒めてあげる。」
「ぁ……」
絢瀬は頭の中をふんわりさせて、千隼に擦り寄った。そして顔を上げてそっとキスをする。
「座るまで、見せつけるように、頑張るね」
「うん」
「……今日もプレイ、してくれる?」
「させてくれる?」
「もちろん。沢山いじめて。」
目を細めた絢瀬と同じような顔をして千隼は立ち上がり、座ったままの彼の手を引いてリビングに入った。
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