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第14話

翌日、絢瀬は言われた通りキスマークを見せびらかす様にして出社し、デスクに座ると慌ててそれを隠した。 ほんの数分だったが、確かにそれを見た人間がいてその日少しだけ噂になった。 『龍川さんにはそれはそれは愛情深い恋人がいる』と。 千隼は気分が良くて、恥ずかしそうにしている綾瀬を眺めながら仕事をする。 帰ったら存分に褒めてあげよう。それから昨日は結局出来なかった準備も進めて──千隼はそう考えて口元に薄く笑みを浮かべていた。 十時になってコーヒーを買いに席を立った千隼は、絢瀬が追いかけるように席を立ったのに気が付いて、わざと歩く速度をゆっくりにした。 あとほんの数秒で隣に来るだろうと思った矢先、女性の声が絢瀬を呼び止めた。 千隼は分かりやすく苛立って、自販機に向かって小銭を入れ深く息を吐いた。 ボタンを押しガコンと缶コーヒーが出てきたところで、絢瀬と女性がやって来て、千隼はコーヒーを取りだし顔を上げて眉を寄せた。 何で触られてるんだよ、と思いながら絢瀬を睨む。 女性の手が絢瀬の腕を触っていた。 絢瀬は困った様に笑った後、千隼を見てその表情を固まらせた。 「ぁ、溝口君。お疲れ様」 「お疲れ様です」 それだけ言うと冷たい態度でその場を離れる。 絢瀬は焦ったけれど、隣にいる女性をぞんざいに扱うことも出来ず、結局その休憩中が終わってからも大人しくしていた。 帰ってからのことが怖かったけれど、お仕置されることは絢瀬にとって楽しみでもあるのでよく分からない感情が胸にあった。 ■ 帰宅してすぐ、壁に押し付けられてグレアを浴びせられた絢瀬は、言い訳なんてするつもりは毛頭なく腰を抜かして床に座り込んだ。 追い掛けるように目線を合わせた千隼は絢瀬の頬を強く叩いて深く息を吐く。 「なんでベタベタ触られることを許すの?」 「ゆ、るしては、いない……」 「やめてって言わないんだから許してるのと同じだろ。あの女、絶対絢瀬も自分に気があるって思ってるよ。」 「千隼、くん」 「ちっ」 千隼は絢瀬から離れて、昨日届いていた荷物から一つ物を取りだし絢瀬に投げた。 「それ、自分でやってきて。」 「え……」 「後ろの準備。三十分やる。終わったら全裸で戻ってこい」 「ぅ……ぁ、は、はい……」 千隼は準備も慣れるまで優しくリードして行ってあげようと思っていたのをやめた。 イライラしながら服を着替え、ソファーに座ってテレビをつける。

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