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第一章・6

 何かあったのかな、と実由は不安になった。  司は、大手企業に勤める会社員だ。  今年で30歳になる司と、実由は体の関係を持っていた。 (いや、司さんとは、お小遣いが欲しいから付き合ってるだけだし!)  不安を振り払うように、実由はスマホを閉じた。 「どうかしたのか? 誰から?」 「ん? うん、実家のお兄ちゃん。酔っぱらってるみたい」  そうか、と健斗は再び目をつむってしまう。 (そこで深入りはしてくれないんだね)  実由は、横を向いて瞼を閉じた。  涙が一筋、流れる。 (僕は、小さい頃から健斗のことが大好きなのに)  だけど、健斗は絶対にこっちを向いてはくれないんだ。  はぁ、と溜息をつき、実由は健斗の背中を見つめた。  そっと手を伸ばし、その広くなった背に触れた。 「健斗、寝た?」 「……」 「寝ちゃったのか。そっか」  じゃあ、僕ももう寝ちゃおう。  健斗のことを想いながらも、明日は司に連絡してみようかどうか考えている自分がここにいる。  そんな自分が、実由は嫌いだった。

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