8 / 100

第一章・8

「だって、寂しいんだもん。僕だって、辛いよ」  どんなに肌を合わせても、健斗は僕を好きになってはくれないんだ。  そう思うと、誰かに慰めてもらわずにはいられない。  司は大人の包容力で、そんな実由を抱いてくれる人だった。 「いやいやいや、何考えてる? 司さんとは、そういうんじゃないから!」  お小遣いをくれるから、会ってるだけ。  そう自分を偽ることにも、もう慣れてしまった。 「何、着て行こうかな。このカットソー、いいかな」  司と会う時には、少し背伸びをして大人っぽい服を選ぶ。  そしてクローゼットの中には、そんな大人びた服ばかりがどんどん増えていく。 「僕、何してるんだろ」  こんなことする暇があるのなら、健斗に会えばいいのに。  会って、好きだよ、って言えばいいのに。 「……言えないよ。いまさら」  デートに着ていく服を決め、実由はベッドのシーツを取り換えた。  昨夜、健斗に貸したパジャマも洗った。  健斗の匂いを、消してしまった。  心からは絶対に消せない健斗の残り香を、無理にもみ消した。

ともだちにシェアしよう!