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第二章・4
「大丈夫ですか?」
公園のベンチでうなだれている、スーツの男。
それが、司だった。
声をかけたのは、実由だ。
「ありがとう。少し休めば大丈夫と思うから」
「でも、具合悪そうですよ?」
その時、司は酔っていた。
部下の失敗を上司にさんざん絞られた挙句、鍛えなおしてやる、などと言われて飲まされたのだ。
中間管理職の悲哀、と言えばそれまでだが、理不尽な目に遭ったやるせなさが、酔いに拍車をかけていた。
「酔っぱらってるんでしょう。吐いたら、楽になりますよ」
行きましょう、と実由は公衆トイレに司をいざない、そこで世話を焼いた。
「すまないね」
「慣れてますから」
兄がよく、酔っては吐くんです、と実由は笑顔だ。
救われた。
そう、司は思った。
何より、この笑顔に救われた。
見知らぬ男に、救いの手を差し伸べる。
そんないい子が、まだこの世に残っていたとは。
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