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第四章・8
『実由、起きてた?』
「うん、大丈夫」
『そう。……今から、そっちに行っても、いい?』
「どうかしたの?」
『何となく、顔が見たくなって』
「顔が見たくなって、か」
通話を終え、実由は司の言葉を繰り返していた。
嬉しい言葉だ。
会いたい、と思ってくれる。
好かれている、証拠だ。
「ありがとう、司さん」
僕も、今夜は独りじゃダメみたいだったから。
健斗のことを、司に話そうと思っていた。
「あのダメ健斗も、ようやく恋人ができた、って」
そう、言おう。
考えたとたん、また涙がぽろりとこぼれた。
「何だよ、これ。ダメなのは、僕じゃん」
このままだと、健斗の前に出ただけで泣けてきそう。
ホントは健斗のことを、ずっと好きだったって、言っちゃいそう。
「それはいけないよね、いまさら」
健斗は淳さんと結ばれて、幸せいっぱいのはずだ。
そんなところに、水を差すようなこと言えやしない。
「……司さん、早く来て」
そして、僕を抱いて。
唇をかみしめ、実由は司を待った。
暗い部屋で、待っていた。
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