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第五章 慰め
「鍵がかかってない」
不用心だな、と思いつつ、司はアパートの実由の部屋に上がった。
明かりもついておらず、真っ暗だ。
目が慣れるのを待って、奥へと進む。
ここへ来るのは初めてではないので、勝手は解っていた。
「実由」
ベッドの置いてある部屋へ入り、名を呼んだ。
暗がりの中から、か細い声が。
「司さん」
「どうしたんだ? 電気も点けずに」
「暗い方が、落ち着くから」
そうか、と司は明かりを灯すことを止めた。
短い沈黙の後、司は明るい声で言った。
「健斗くん、ついに恋が実ったって?」
「……うん」
「でも、素直に喜んであげられない。そうだろう」
「僕、悪い子だね」
悪いことなんかない、と司は実由の座るベッドに腰掛けた。
「実由は、健斗くんが大好きだもんな」
「でも、もうダメ。諦める」
「諦められるの?」
「……」
返事もせずに抱きついてくる実由を、司は抱きとめた。
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