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第五章・4
「健斗くんがフラれたら、今度こそ実由は想いを伝えたらいい。好きだ、って」
「言えないよ、いまさら」
「じゃあ、いつまでもこうやって、泣いてるのか?」
それは、いけない。
「実由もそろそろ、自分の幸せに手を伸ばすといい」
「僕の、幸せ?」
「そう。それは、健斗くん抜きでは考えられないんだろう?」
「ん……」
優しく髪を撫でられているうちに、実由は寝てしまった。
その寝顔を見ながら、司は思う。
「私の幸せに、実由がいてくれたら素敵なんだけどな」
どうしても、この年の差が厄介だ。
健斗なんか放っておいて、私のところへおいで。
私が君を、幸せにしてあげる。
そう叫びたいのに、理性が邪魔をする。
大人の顔が、格好をつけたがる。
「泣きたいのは、私の方かもしれない」
そう言い置いて、服を着た。
実由を起こさないよう、そっとアパートを抜け出した。
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