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第五章・5
実由の通う高校には、校門までに長い坂がある。
その坂を、毎日健斗と一緒に歩くことが日課だったのに。
「今朝は独り、か」
健斗の奴が、坂の登り口で淳と待ち合わせをしていたのだ。
『え? あ、淳さん。おはようございます』
『おはよう、毛利くん』
『あの。健斗と付き合い始めた、って。やっぱり……』
『本当だよ。お友達、とっちゃったかな』
『いえいえ! ふつつかものですが、健斗をどうぞよろしくお願いします!』
そんな会話をしたのち、実由は三人で一緒にと言う淳の誘いを断り、一人で坂を駆け上がったのだ。
「邪魔しちゃ、悪いし」
やだな。
昨夜、司さんにいっぱい話を聞いてもらって、いっぱい泣いたのに。
「まだ、ちょっと辛い」
涙が勝手に、にじんでくるのだ。
でも、こんな朝が日常になる日がきっと来る。
そう自分に言い聞かせ、実由はのろのろと歩いた。
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