54 / 100

第七章・6

 それでも、健斗は実由を恋人にすることができなかった。 「近すぎたんだ。あまりにも」  まるで、兄弟のように。  悩みも喜びも、何でも分かち合ってきた。  そして、健斗は惚れっぽい性格だった。  なにせ、隣の席の子が消しゴムを貸してくれただけで、ときめくのだ。  そのたびに告白しては、玉砕してきた。  付き合ったこともあったが、長続きしなかった。  恋に破れた健斗を慰めるのもまた、実由だった。 「俺、そのうち淳さんとも別れるのかな」  しかしその時、もう実由はいない。  彼は、秀孝と付き合っているのだ。  その現実に、健斗は改めて愕然とした。 「実由は……、もういないんだ」  それは、絶望にも似ていた。  健斗の胸を、締め付けた。

ともだちにシェアしよう!