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第八章・6
「でも、どうして急に?」
「無性に会いたくなったから、という理由はダメかな?」
「ううん。嬉しい」
お茶を飲み、新商品のコンビニスウィーツを食べ終わるころ、秀孝が気軽そうに言ってきた。
「ところで、飛永くんはどうなのかな。淳と、うまくやってるの?」
「大丈夫みたい。今度の日曜に水族館でデートする、って言ってたから」
「そう……」
(もう、一週間経つ。淳の奴、本気で飛永と付き合う気か?)
実由は実由で、気になることがあった。
(秀孝さん、淳さんのこと『淳』って呼んでる)
やっぱりまだ、淳さんのことが気になるんだ。
もやりとした気分を持て余す実由に、秀孝がすり寄って来た。
「実由。今から……、いいだろ?」
「え!? ず、頭痛が!」
「美味しそうにお菓子、食べてたじゃないか」
「それは。その」
好きだよ、実由。
秀孝が、口づけをしてくる。
実由は、必死で逃れた。
「あのっ! せめて、シャワー使わせて!」
「ん? ああ、いいけど」
逃げるようにバスルームに駆け込む実由を見送り、秀孝は不思議に感じていた。
「生徒会室で許すような子が、どうして自宅で嫌がるんだ?」
ふと、デスクに目をやると、そこには可愛いポチ袋が置いてあった。
中には、万札が数枚入っている。
「これは……」
秀孝は、バスルームの方に疑わしい目をやった。
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