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第九章・6
「吐くほどじゃないけど……、キツイ」
淳は、バリアフリートイレの壁にもたれて、口で呼吸をしていた。
四人で顔をそろえて解ったことは、辛い現実だった。
「健斗ったら。毛利くんと一緒だと、あんなに楽しそうで……」
やっぱり、あの二人の方が、お似合いなんだ。
僕といるより、毛利くんといる方が、健斗には幸せなんだね。
涙を一粒こぼした時、ドアがノックされた。
「いけない」
バリアフリートイレは、本当にそれを必要とする人が使うべきものだ。
淳はよろめきながら、鍵を開けた。
「淳」
「秀孝!?」
驚く間もなく、秀孝はドアをすり抜け中に入り、後ろ手に鍵をかけた。
「顔色が悪いな」
「趣味の悪いデートなんかすれば、嫌でも気分が悪くなるよ」
久々の淳の毒舌に、秀孝はくすりと笑った。
「淳はやっぱり、そうでなきゃな」
「それより、今度は何を企んでるの? ダブルデートなんかに誘って、どういうつもり?」
淳の表情は弱弱しいが、憤りに満ちている。
秀孝は、溜息をついた。
「どうして私は、こうも人に愛されないんだろうね」
思いがけない秀孝の弱気な言葉に、淳は眉をひそめた。
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