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第九章・7
「何か、あったの? 秀孝」
「実由に、他の男がいる」
まさか、と淳は口元に笑いを張り付けた。
しかし、秀孝の浮かない表情はそのままだ。
淳は、瞼を閉じて静かに首を横に振った。
「それはね。あなた自身が、誰も愛さないからだよ」
「私は愛したさ、君を。そして、実由を」
「じゃあ、愛し方に問題があるんだね」
「解らないな。これ以上、どうやって人を愛すればいい?」
学校一の秀才でも、こんな簡単なことが解らないなんて!
淳は、涙をぽろぽろこぼしながら、訴えた。
「あなたの愛は、誠実さがないんだよ。私を置いて、他の誰かと寝たり。当てつけに、毛利くんと付き合ったり!」
「当てつけは、淳が始めたことだろう!」
初めて聞く荒げた秀孝の口調に、淳は驚いた。
いつも冷ややかに人を観察している彼が、感情をむき出しにするなんて。
「秀孝……ッ」
淳はそれ以上、話せなかった。
彼に、抱きしめられたのだ。
強く抱かれ、口づけられた。
とんとん、とドアを叩く音がする。
『淳さん、いますか? 大丈夫ですか?』
実由の声だ。
それでも秀孝は、淳の体を離さなかった。
ただ抱きしめ、その唇を貪っていた。
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