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第十章・3
秀孝は、淳の寝ているベッドサイドに、腰かけていた。
「水、飲むか?」
「うん」
淳は、ペットボトルを受け取った。
冷たい感触が、手に心地いい。
一口だけ飲むと、キャップを閉めてまた秀孝に渡した。
その時かすかに二人の手が触れ合い、秀孝はそっと握った。
「ダメだよ」
「なぜ」
「秀孝は、毛利くんと付き合ってるんだから」
「その彼を放っておいて、今私はここにいるんだ」
気分はどうだ、と言う秀孝の口調は優しい。
だが淳は苦笑いして、こう言った。
「最悪」
彼の手を握る秀孝の力が、少し強くなった。
「私は妙に、落ち着いているよ」
「相変わらず、神経が太いね」
「その調子で、これからは思ったことは何でも言うようにするといい」
そうしたら。
「そうしたら、今回みたいな悪事は思いつかないだろうから」
「悪事、か」
「そう。悪事」
確かに、悪事だ。
この人の気を引くために、健斗を利用し、結果傷つけた。
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