78 / 100

第十章・7

 息を吐きながらも、実由は健斗のことを考えていた。 (健斗、失恋して辛いよね。いつもなら、僕……)  いつもなら『彼氏ごっこ』をして、健斗を慰める実由だ。  だが今は、自分自身もダメージを受けている。  あまり、気乗りがしない。  自分が元気でないときは、人に元気を分けてあげることができないものだ。  それでも実由は、一生懸命明るく言った。  言ってみた。 「健斗、彼氏ごっこ、する?」 「……」  意外にも、驚いたような健斗の表情だった。  いつもなら、自分から実由のアパートに押しかけてくるような男なのに。  そして、返事も意外だった。 「いや、今日はいいよ。実由も、傷ついてるだろ?」 「健斗」  実由の胸は、いっぱいになった。 (健斗、何か成長してる)  他者を思いやる、心の広さが健斗には見られた。

ともだちにシェアしよう!