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第十章・7
息を吐きながらも、実由は健斗のことを考えていた。
(健斗、失恋して辛いよね。いつもなら、僕……)
いつもなら『彼氏ごっこ』をして、健斗を慰める実由だ。
だが今は、自分自身もダメージを受けている。
あまり、気乗りがしない。
自分が元気でないときは、人に元気を分けてあげることができないものだ。
それでも実由は、一生懸命明るく言った。
言ってみた。
「健斗、彼氏ごっこ、する?」
「……」
意外にも、驚いたような健斗の表情だった。
いつもなら、自分から実由のアパートに押しかけてくるような男なのに。
そして、返事も意外だった。
「いや、今日はいいよ。実由も、傷ついてるだろ?」
「健斗」
実由の胸は、いっぱいになった。
(健斗、何か成長してる)
他者を思いやる、心の広さが健斗には見られた。
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