86 / 100

第十一章・7

「言えないよ、いまさら」 「勇気を出して」 「でも、嫌だ、って言われたら……」  臆病な実由に、司は微笑みかけた。 「じゃあ、こうしよう。もし、健斗くんが実由と付き合わないって言ったら」 「言ったら?」 「私と、付き合って欲しい」 「……付き合ってるじゃん、今」  そうじゃなくって、と司は実由の頬に手を当てた。 「お金を介さない、本当の恋人になって欲しいんだ」 「司さん」 「好きだよ、実由」  そして、司は実由にキスをした。  静かで、柔らかで、優しいキスだった。 「少しだけでいいんだ。自分を、前に押すんだよ」 「できるかな、僕に」 「できるさ」  そして、司は起き上がった。 「結果が出たら、知らせて」  彼が衣服を整えるのを、実由はじっと見ていた。  バッグから、ポチ袋を出す司。  それを、差し出してくる司。  実由は受け取りながら、涙をこぼした。 (僕、司さんの気持ち、全然考えてなかった)  黙って寝室から出ていく司の背中を、ぼやけた視界で見送った。

ともだちにシェアしよう!