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第十一章・9

「あの、さ。実由、彼氏ごっこのことなんだけど」 「忘れてなかったんだ!」  うん、いいよ、と実由は立ち上がりかけた。  シャワーを使って、着替えようとしたのだ。  しかし、その腕を健斗が捕まえた。 「待てよ。その前に、聞いて欲しいことがあるんだよ」 「何だろ」 「俺、淳さんと付き合って解ったんだけど」 「うん」 「実由が、秀孝さんと付き合って、気づいたんだけど」 「うん?」  そこで健斗は、やけに真剣な顔をした。  真面目に聞いて欲しい、と念を押した。 「俺、好きだ。実由のことが、好きなんだ」 「え……?」 「自分でも気づいてなかったんだけど、ずっと前から。実由のこと、大好きだった」 「健斗」  だから。 「だから、彼氏ごっこなんて、もうしない。実由と寝るなら、彼氏として抱きたい」  返事の代わりに、実由は健斗に抱きついていた。 「実由!?」 「好きだよ、健斗。大好きだよ!」  実由の目から、新しい涙が流れた。  嬉しくても涙が出ることを、初めて知った。

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