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第十二章 前を向いて

 健斗の口づけを、実由は初めてのような心地で受けていた。 「ん、ぅん。んんぅ、ふっ、ぁん……」  甘い、優しいキス。  こんなキスを健斗にもらうのは、初めてだ。 (いつもなら、もっと雑で激しいのに)  ゆったりと唇を離して、実由は言ってみた。  妙にかすれた声が、出た。 「どうしたの? キス、すごく素敵だよ」 「俺、実由にもっと優しくするべきだった、って気づいたんだ」  だから、がつがつしない。  心を込めて、ていねいに愛したい。  そんな健斗に、実由はまた涙をこぼした。 「嬉しい……」 「今まで、ごめんな」  だから、もう泣かないで。  健斗は、実由の頬に口づけた。  そのこぼれる涙を、吸い取った。

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