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第十二章・8
『じゃあ、こうしよう。もし、健斗くんが実由と付き合わないって言ったら』
『言ったら?』
『私と、付き合って欲しい』
以前、確かに司はこう言ったのだ。
(僕と付き合いたかったんだよね、司さん。本当は)
だけど、こんなに喜んでくれる。
僕と健斗が両想いになれたこと、こんなに祝ってくれている。
「司さん、ごめんなさい。辛いよね。僕が健斗と付き合うようになったら、辛いんだよね」
「……うん、辛い」
でも、と司は顔を上げた。
「それ以上に、嬉しいよ。実由が本当に幸せになってくれて、嬉しい」
「司さん」
「でも、もう。会えないね。会えなくなるのは、本当に辛い」
司は、解っていたのだ。
実由がもう、健斗以外の誰にも抱かれたくないと思うことが。
「ごめんなさい、司さん。僕、司さんの気持ち、全然知らなかった。知ろうとしなかった」
「泣かないで。私は、大丈夫だから」
涙を流す実由の髪を、司はそっと撫でた。
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