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第十二章・9

「実由にフラれて、踏ん切りがついたよ」 「何、それ」 「故郷に、帰ろうと思う」 「会社は?」 「辞める」  実はね、と司は妙に明るい声で言った。 「以前から、起業しようと思っていたんだ」 「自分で会社を、つくるの?」  そう、と司はうなずく。  地元の役に立つ仕事をしたい、と彼は言う。 「故郷には、私の初恋の人もいるしね。彼のためにも、頑張るよ」 「その人、結婚してるの?」 「解らない。連絡先も、知らない」  でも、と司は笑顔だ。  同じ空の元、同じ空気を吸っていると思うと、救われる、と。 「その人と、出会えるといいね。一緒になれると、いいね」 「実由にそう言ってもらえると、嬉しいよ」  そこまで言うと、司は立ち上がった。 「さて。私は、もう行かなきゃ」 「司さん」  この人とは、もう二度と会えない。  そう思うと、実由の胸はひどく痛んだ。

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