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第6話
「家に帰らないと……」
両親も、優希も心配しているかもしれない。
それだけが気がかりでポツリと呟いた声に反応したのは、障子の前にじっと佇む男性だった。
「光希は……帰りたいの?」
鈴を転がしたような綺麗な優しい声。
「は、はい。父も母も、きっと弟も、心配してると思うので……」
”光希”と、教えてもいない名を呼ばれたことに内心驚きながらも、男性の問いかけに答えれば……
「……ごめんね」
ただ一言、目を伏せて悲しそうに男性は謝った。
何故謝るのか、
何故そんなに悲しそうな顔をするのか、
わからなかったけれど……
悲しんでいる顔を見ていると、切なさに胸が軋んで
「大丈夫ですか?」
と、男性の傍にそっと膝を付いて問いかけた。
「光希は、優しい子だね……」
「ありがとう」と顔を上げた男性の顔には先程までの悲しみの色は消えていて。
柔らかく微笑むその表情の方が、
やっぱり似合うなと感じた。
「僕達は、光希が来るのを……ずっと、ずっと……待ってた」
まるで、心の底から待ち望んでいたかのようなその言葉に、胸の奥深くがキュッと締め付けられる。
「これから、光希に……大事な話が、ある。きっと、光希は……すごく、悲しむ。それでも……僕と一緒に、着いてきてくれる?」
そんな問いかけと共に、ゆっくりと手を差し伸べられて……
悪い予感は、あった。
昨日、あの巻物を見た後から、
ずっと、不安な気持ちが消えてくれない。
でも、
それでも……
目の前の手を振り払うことは出来なくて、
不安な気持ちを薙ぎ払うように一度、深く深呼吸をすると……
伸ばされた手を優しく握り返した。
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