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第8話

なんなんだ一体……。 夢だとしたら、やけにリアルな夢だ。 白髪の男、虎珀に手を握られ動揺しながらも、厳か且つ静謐なこの部屋の空気に心は落ち着きを取り戻す。 先程紹介された虎珀と紫翠の他に、ここへ連れてきてくれた朱色の羽織りに身を包んだ男と、もう一人……睨むようにこちらを見る青髪の男。 静けさに満ちる空気を破ったのは朱色の男だった。 「挨拶、まだしてなかった。南方、夏を司ってる、朱雀神(すざくしん)。名前は朱火(あけび)、よろしくね」 朱火と名乗った男は、やはり先程同様、鈴を転がしたような澄んだ声でにこやかに微笑む。 まるで暖かい風を運ぶような柔らかな表情に強ばっていた顔が綻んで、その場が温かな空気に包まれる。 「チッ」 しかし、そんな和んだ空気を壊したのは大きな舌打ちで……。 舌打ちした本人……青髪の男へと視線を向ける。 それは他の3人も同様であった。 「貴様、花嫁に失礼であろう」 青髪の男からひしひしと伝わる苛立ちに、いち早く声をあげたのは虎珀で、その表情は先程までの優しさに満ちた顔つきとはまるで違って、あまりの形相(ぎょうそう)(おのの)く。 穏やかな空気から一変、場は緊迫した空気に満ちていた。 「こ、こはくさん、僕は大丈夫ですから」 汚れひとつない真っ白な古装を思わず掴んで虎珀さんを止めに入る。 「っ、しかし……我が花嫁に対する不躾な態度、我は許せぬのだ」 怒りと悲しみが混じった悲痛な声。 初めて出会った自分を"花嫁"などと呼び慕い、まるで女性にするかのように接する虎珀に内心動揺していた。 女でもない男の自分に何を求めているのか、全くわからない。 正直、夢であって欲しいとすら思っている。 思っている、のに…… まるで自分のことのように怒り悲しむ琥珀を見ていると、胸がキュッと締め付けられた。

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