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手負いの虎③
「清虎と友達になったからって、哲治と友達やめるわけないのに。身を引く必要なんて全然ないじゃん」
「ごめんな。俺、友達とか距離感とかよーわからんねん。今まで当たり障りなく誰とでも上手に付き合うてきたけど、本当に仲良くなった奴なんておらんかったし」
笑っているはずの顔がなぜか寂しそうに見えて、陸は清虎の背負っているリュックサックを思わず掴んだ。学校指定ではない大きな黒いリュックに、校章の入っていないワイシャツ。グレー系でも陸とは微妙に色の違うズボン。
清虎は何一つ揃いのものを持っていなかった。強いて言うなら教科書くらいだ。清虎が幻や陽炎の類の、酷く不安定な存在に思えた。実態を伴って繋ぎ止めるにはどうしたらいいだろうと、必死に答えを探す。
「清虎、ちゃんと言葉にして言うね。友達になろう。同じ学校に通える期間は一ヵ月だけど、転校したって友達でいられるでしょ?」
どうかちゃんと届きますようにと、縋り付くような気持で伝えた。
清虎の大きな黒目が、更に大きく見開かれる。
朝の光に照らされた肌は白く、吹き抜ける風が髪を揺らした。ゆっくりと瞬きをした後で、嬉しくて仕方ないという無邪気な笑みが清虎の全身に広がる。その瞬間、全ての音が消えたような気がした。
ただただ、清虎に魅了される。
これが正しい答えかどうか、そんな事はもうどうでも良くなっていた。自分が友達になりたいと心から思ったことを清虎が喜んでくれたと言う事実が、ひたすら嬉しかった。
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