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*第五話* 応援団

 清虎の潤んだ瞳と通学路でほのかに香った金木犀を、一生忘れないだろうという確信を抱きながら、陸も笑みを返す。  清虎が何かを言いかけた瞬間、急に腕を強く引かれて陸は後ろに倒れ掛かった。 「陸、急がないと遅刻する」 「あ……うん」  哲治に腕を掴まれ、なかば引きずられるように陸は歩き出す。清虎はそのまま言葉を飲み込み、少し後ろを静かに笑いながら付いてきた。  何て言おうとしたんだろう。清虎から貰えるものは、何でも欲しいのに。それが他愛のない言葉だったとしても。  陸は少し離れて歩く清虎との距離をもどかしく感じ、哲治に掴まれていない方の腕を差し出した。 「清虎はこっち! 学校まで俺のこと引っ張って行ってよ」 「なんやそれ。男三人で手ぇ繋ぎながら学校行くとか、可笑しいやろ」  呆れながらも清虎は、差し伸べられた手を握り返した。思ったよりも温かい手のひらに、陸はくすぐったいような気持になって意味もなくへらっと笑う。哲治が深く息を吐いた後、腕にぶら下がる陸を支えながら「おい」と声を掛けた。 「清虎、走るの速い?」 「ん? まぁ、足には自信あるで」 「じゃあ、陸を引っ張ったまま全速力で学校まで走るぞ」 「おもろそうやん。ほな行くで。さん、にー、いち!」  合図とともに、手加減なしで哲治と清虎が走り出す。背負った鞄が上下に揺れて、教科書やらペンケースが、がしゃがしゃと音を立てた。  二人に牽引されて勢いが止まらず、強制的に前に出される足がもつれて転んでしまいそうだった。陸は思わず悲鳴を上げ、それを見た通学路を行く他の生徒が囃し立てるように声援を送る。通りすがりに女子の「全く、男子は」と言う声が聞こえて「本当にね」と思ったが、腹の底から笑いが込み上げてきた。 「あっはっは」 「ちょお、陸笑うなって。俺まで笑ってまうやろ」 「ほら、気ぃ抜くとコケんぞ。あともう少し!」  気付けば清虎も哲治も声を上げて笑っていた。三人ほぼ同時に校門に駆け込んで、ぜぇぜぇと肩で息をする。ただでさえ呼吸が整わないのに笑いが止まらず、苦しくて咳き込んだ。それすら可笑しくて仕方ない。 「あっちー。何で朝から走らなあかんねん。あー、おかし」 「だって陸が落ち込むから。モヤモヤした時は、走るのが一番だろ」 「え、俺のせいで走ったの? それにしても、清虎も足速いね。運動会で哲治と直接対決見たかったけど、同じクラスじゃ無理か」 「運動会? それっていつ」  下駄箱で靴を履き替えながら、清虎が強い興味を持った目で陸を見た。廊下に掲示された美術部作成のポスターを指さして、陸が答える。 「今月の三十日だよ。清虎出れるよね?」 「月末なら移動日だから、ギリギリ出れるな。俺、運動会初めてや。めっちゃ嬉しい」 「初めて?」  陸と哲治の声が重なった。

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