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応援団②
清虎はポスターに書かれたスローガンの『完全燃焼』の文字に触れながら、嬉しそうに頷く。
「小学校でも中学校でも、上手くタイミング合わなくてなぁ。運動会の前に転出して、けど次の転入先ではもうとっくに運動会終わってて、そんなんばっかりやった」
中三になって運動会が初めてなんて、そんな事があるのかと、陸は改めて育ってきた環境の違いを実感した。
清虎は階段を上りながら、機嫌良さそうに歌を口ずさむ。ただの鼻歌なはずなのに、透明感のある声が踊り場に響いてすれ違う生徒が振り返った。
「清虎、応援団長やってみたら?」
哲治が階段を一段飛ばしで上り、清虎を追い抜きざまに話題を振った。
「応援団長?」
「あ、それいいね!」
哲治の提案に陸が目を輝かせる。
「毎年三年生が団長になるんだ。団長は応援合戦の時に袴を着てね、凄くカッコいいんだよ。ちなみに今年うちのクラスは白組。清虎は白い袴似合いそうだなぁ」
「いやいや。でも俺、よそ者やのに」
困惑しながら清虎は首を振ったが、陸は既に脳内でリアルに団長姿を想像しているようだった。うっとりと宙を見つめながら、一人で何度も頷いている。哲司がやれやれと言った風に肩をすくめ、視線を清虎に移した。
「朝のホームルームで応援団員決めがあるだろうから、俺はお前を推すよ」
始業のチャイムと共に教室に入ってきた担任は、備えつけの大型モニターを黒板の前まで移動させ、繋いであるパソコンを操作しだした。
「例年通り一組は赤、二組青、三組が白。今年は団長も決めるからな。下級生を引っ張る重要な役だから、そのつもりで去年の動画を観て参考にしてくれ。時間ないから、ダイジェスト版さっそく映すぞ」
大画面に応援合戦の様子が映し出された。白組の団長が着物姿でハチマキをなびかせながら、口上を堂々と述べる。それと同時に応援旗が大きく振られ、中々の迫力があった。
「どうだ、団長やりたい奴はいないか。女子だっていいんだぞ。遠藤、やってみないか?」
担任から指名された遠藤は、わざとらしく眉を寄せ困って見せた。後ろの席の女子に「理沙ならできるよ」と声を掛けられ、「えー」と首を傾げてクスクス笑う。
「先生、私、団長はちょっと。でも、副団長なら出来そうかなぁって思います」
「お、引き受けてくれるか。じゃあ副団長は遠藤に決定だな。団長は……そうだな、佐伯はどうだ? お前は元気がいいから、白組全体が盛り上がるだろう」
今度は陸に白羽の矢が立ち、賛同する声が教室に広がった。急に名前を呼ばれて目をしばたたかせる陸に代わって、哲治がガタっと椅子を鳴らして立ち上がる。
「先生、俺は佐久間が良いと思います」
名前を挙げられた清虎は、居心地悪そうに背を丸めた。
「俺もそう思う! だって、清虎の声は良く通るし華やかだし。それに、袴姿超見たいし!」
陸の言葉に、クラス全体が「確かに」と頷いた。担任までもが納得したように膝を打ったが、当の本人である清虎は「いやいや」と冷静に首を振る。
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