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*第六話* ごちゃ混ぜの感情

 翌日から昼休みに校庭で応援団の練習が始まると、清虎の名はあっという間に学校中に知れ渡った。  清虎にはとにかく華がある。パッと目を引く容姿に舞台で鍛えた発声。指先までピンと伸びた応援の振りは、通りすがりの生徒たちの足を止めるには充分過ぎる威力があった。  そうしてギャラリーが増えてくると、遠藤はこれ見よがしに清虎に話しかけ、仲の良さを周囲にアピールする。「今年の団長と副団長もお似合いだね」と声を掛けられれば、遠藤は大袈裟に照れて見せ、「お似合いって言われちゃったね」と、困ったように首を傾げて清虎を見上げた。  そんな時、清虎はいつも否定も肯定もせず、ただにっこり微笑んでやり過ごす。それから哲治の肩を叩いて「お前が俺を団長に推した理由がよお解ったわ。今度は俺が生贄か」と愚痴をこぼした。 「清虎って、去年の応援合戦の映像を一回観ただけで、振りも口上も覚えちゃったの? 凄いね」  汗を拭いながら、陸が清虎の隣に並ぶ。練習が終わって教室へ向かう途中、すれ違う生徒たちはチラチラと清虎を目で追っていた。それに気づいた陸は「どうだ、清虎は凄いだろ」と誇らしい気持ちになる。 「大衆演劇は台本なんて無くてな、稽古中に座長が台詞や流れを口で説明するだけなんや。だから聞いて覚えるんは慣れとんねん」 「そっか。俺の知らない世界だ」 「ホンマに今度舞台見に来てや。入り口で名前言うたらチケット要らんようにしておくし。なんなら哲治も一緒に」  清虎はすぐ後ろを歩く哲治を振り返りながら、ニヤッと笑った。哲治は仏頂面のまま、「ああ」とだけ答える。 「俺たちが見ても清虎は緊張しないの?」 「そんなん、するかいな。赤ん坊の頃から舞台に乗っとんのやで」  陸の問いに呆れ顔でため息を吐いた清虎が、教室のドアを開ける。席に着くなりそのまま帰り支度を始めたので、陸は驚いて清虎の元へ駆け寄った。 「何してんの」 「ん? 俺、今日は昼公演で出番があんねん。せやから早退。先生にはもう言うてあるで」 「公演の為に早退しちゃうの……?」  学業よりも舞台が優先されることに戸惑った陸は、そこまで何もかも犠牲にしなければいけないのだろうかと唇を噛む。  清虎は陸の心情を察したように、僅かに微笑んだ。

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