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ごちゃ混ぜの感情②
「陸、俺のこと可哀相とか思わんとってな。陸がこの先、高校や大学行って探すもんを俺はもう見つけとるだけや。俺の本分は学生やない、役者。俺はそれを誇らしく思うとるんよ」
穏やかな笑みを浮かべながら陸の頭に手を乗せる清虎が、酷く大人びて見えた。反面、自分はまだまだ幼いと言われているような気がして視線を落とす。
「陸は何考えとるのか丸わかりで可愛いなぁ。そんな、置いてけぼりされる子どもみたいな顔せんとって」
清虎が両手で陸の頬を挟んで力を入れるので、唇がタコのように突き出た。その顔が可笑しかったのか、清虎がケラケラ笑う。陸はムッとした表情を作って、自分の頬を押さえる清虎の手首を掴んで外した。
「俺の顔で遊ぶなよ」
「せやけど、可愛いねんもん」
掴まれた手首を押し戻しながら、清虎が再び陸に手を伸ばす。もう少しで頬に届きそうだった清虎の指先を、今度は哲治が掴んだ。
「清虎、あと十分でバスが来る。乗り遅れんぞ」
スッと笑顔を消した清虎が、首をゆっくり回して哲治を見た。
「そら親切にどうも。せやな、もう行かんと」
教科書の詰まった鞄を背負い「また明日な!」と告げ、陸が声を掛ける間もなく教室を飛び出した。陸は慌てて廊下に顔を出し「舞台頑張ってね」と叫ぶ。清虎は走りながら、嬉しそうに手を振った。
「陸……」
陸を廊下から引き戻した哲治は何か言いたげだったが、結局ため息を一つ吐いただけだった。
「何? どうしたの」
「いや、なんでもない。もうチャイム鳴るぞ」
すぐにいつもの顔に戻った哲治は、さっさと席に着き教科書を机から取り出す。首を傾げながらも陸は、「ま、いっか」と気を取り直して着席した。
次の日もその次の日も、それから暫くの間、清虎の早退は続いた。応援団の練習は三日に一度だが、練習が無い日は欠席することもあり、朝のバス停に清虎の姿がないと酷くガッカリした。
「今日も清虎来なかったね」
帰りのホームルームを終えた後、寂し気な表情を浮かべながら陸は教室を出る。
「清虎の出演する日は表にまで行列が出来るからなぁ。売り上げに直結するし、どうしても学校より舞台優先になるんだろ。特殊な世界だよ、仕方ないんじゃない。俺たちとは住む世界が違うんだから」
まるで切り捨てるような哲治の言いざまに、陸は渋い顔をした。舞台優先は重々承知しているが、それでもやはり納得いかない。
「あ、佐伯に三井。良かった、まだ残ってて」
廊下の向こうから担任に呼び止められ、哲治に反論しようとしていた陸はタイミングを逃して口をつぐんだ。
「悪いんだけど、佐久間に運動会のプリントを持って行ってくれないか。今日金曜だから、次に来るのは週明けになっちゃうだろ。なるべく早く渡しておきたいからさ」
「大丈夫です! 俺、渡しに行きます」
「ありがとう。じゃ、頼むな。気を付けて帰れよ」
両手を差し出してプリントを受け取った陸は、哲治への抗議も忘れて足取り軽く歩き出す。
「陸。今日塾あるけど、いつ渡すの? 今から劇場に寄って渡すなら、俺も一緒に行きたい」
「うん、このまま帰りに寄ってくつもり。じゃ、一緒に行こうか」
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